第34回 牛乳販売店優良事例発表会

(一社)全国牛乳流通改善協会

優秀賞

一般社団法人 全国牛乳流通改善協会会長賞シニア層の活用で
地域の高齢化問題に立ち向かう

有限会社鳥海ハーモニー
代表者池田幸太郎

ここがポイント

  1. ①シニア世代の積極的採用と活用
  2. ②お客様とのコミュニケーション
  3. ③職場内でのコミュニケーション

発表店概要

販売店の歴史及び代表者(発表者)の経歴

1995年
先代の池田志郎氏が廃業店を引き継ぎ創業。創業当初は、メーカー方針により地元スーパーへの卸が中心であり、卸10軒・宅配250軒からのスタートであった。
2000年前半
宅配専用商品グルコサミンパワー発売のタイミングで宅配顧客獲得に力を入れ、宅配中心にシフト。エリア内の顧客開拓に1から取り組み、現在では約4,500軒のお客様と取引するまでに成長している。
2003年
秋田店を開業。
2008年
鶴岡店を開業。
2018年
現社長である池田幸太郎氏へバトンタッチ。幸太郎氏は、地元メーカーの工場~ホームセンターでの勤務経験を経て2005年に当社に入社。2018年に当社を引き継ぎ、現在に至っている。
店頭の様子
代表の池田幸太郎氏

店舖概要と立地環境

(1)牛乳関連店舗・設備

  店数 冷蔵庫 冷凍庫 自販機 ショーケース
本店 1店 8坪 2坪 5台 1台
支店 2店 4坪 1坪
  • 山形県酒田市の本店と鶴岡市の鶴岡店、秋田県にかほ市の秋田店の3店舗で展開している。自販機は山形・秋田の銭湯に、またショーケースはホテルに設置している。
オフィスの様子
オフィスの様子

(2)牛乳関連営業用車両台数

保冷車 冷蔵車 軽トラック ライトバン 二輪車等
その他
持込車
13台 1台 1台 1台
  • 配送は基本的にすべて冷蔵車で行っている。お店ごとの冷蔵車の内訳は、本店9台、秋田店2台、鶴岡店2台である。
冷蔵車
冷蔵庫内

(3)牛乳関連従業者数

  経営者 家族従業員 専従従業員 パート
アルバイト
合計
男性 2人 1人 11人 14人
女性 1人 1人 1人 11人 14人
合計 3人 1人 2人 22人 28人
  • 経営者は代表の池田幸太郎氏とそのご両親。家族従業員は、幸太郎氏の奥様が事務員として働いている。
  • 専従従業員2名は、本店で営業員としてフルタイムで勤務している。また、パートのうち5名は本店にて営業の仕事に従事している。22名のパートの内訳は、本店17名、秋田店3名、鶴岡店2名である。

(4)経営状況

①令和2年製品別売上高(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 96.9 96.1
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 136.4 3.9
牛乳関連合計 98.0 100.0
宅配卸以外の売上計 0 0
合計 98.0 100.0
②令和2年業態別売上高(%)
業態 前年比 構成比
宅配 97.8 97.2
卸(小売) 100.0 0.3
自販機 106.7 2.5
集団 0 0
その他 0 0
合計 98.0 100.0
  • 卸には、保育園3施設、直売所1施設が含まれる。
  • 上記実績では前年比100%を下回っているが、令和2年から3年にかけて営業員の定着率向上・営業員数増加による効果が少しずつ出はじめており、令和3年上期以降は拡売本数も徐々に増加傾向にある。
③令和2年粗利益(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 96.9 96.1
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 136.4 3.9
牛乳関連合計 98.0 100.0
粗利益率 50.0
④配達の状況
配達
時間帯
コース数 集金方法(軒) 日均
本数
毎日 週3 週2 週1 訪問 振込
CVS
引落 PayPay
合計
早朝     12         212 1207   1419 3900本
午前     26         463 2618   3081
午後                      
夜間                      
その他                      
合計     38         675 3825   4500
  • 配達は、一人2コースを基本としている。
  • 高齢者の多い地域であるため、比較的お客様の負担が少ない袋集金が中心である。一方、コロナ禍による接触回数削減、支払いの手間の軽減等を踏まえ、口座振替促進キャンペーンも実施している。

(5)立地環境

  1. 山形県の庄内地域と秋田県南部の1/3を本店と2つの支店でカバーしている。
  2. 庄内地域の高齢化率は36.1%であり、これは高齢化率全国6位の山形県の中でもトップクラスである。なお、今後高齢化率はよりいっそう高まり、2030年には40%を超える見通しである(2030年の全国平均は31.2%と見られている)
  3. 庄内地域には、同マーク1店舗のほか、明治、森永、ヤクルトなど多くの競合が存在している。

経営方針

  • 「和 人と人との繋がりを大事にします ~輪 メーカーとお客様~」
    従業員は年齢、性別関係なくお客様の健康第一を目標に“チーム鳥海ハーモニー”で頑張っています。お客様にお届けする商品を開発、製造してくれるメーカーがあり、それを飲んで健康になってくれるお客様がおり、私たちはメーカーとお客様の架け橋として、人と人との輪を大切にした仕事をしていきたいと考えています。
  • 夢・長期的目標「これから更に年を重ねても働かなければならない時代になっていく中、会社をリタイア、退職した人がまた働ける職場環境を作っていきたい。
  • 令和4年度目標「日均4,000本。新しい人材が入社したのちに辞めずに永く働いてもらえるようなマニュアル作り。

活動内容

1.シニア世代の積極的採用と活用

①シニアの積極的採用による地域貢献

  • 高齢化が進む庄内地域で、定年を迎えたシニア層を積極的に採用している。中には70代で雇用したスタッフもいる。高齢者は仕事が限定されるため、働き口を探す高齢者が多く、社会問題になっている。この社会問題の解消を長期目標と考えて取り組んでいる。
  • 令和3年10月から求人票に「60歳以上優遇」の文章を追加し、シニアの募集を開始。それ以降シニア世代5名を採用、うち4名が継続して働いている。

②ゆとりある働き方」を推進

  • フルタイムではなく、配達のある月火木金の週4日・5時間勤務のパートとして雇用することで、「ゆとりある働き方」を推進している。
  • 働いているスタッフから、「年金をもらう年ではあるが、まだ先も長いし働きたい。でもフルタイムで働くことはできないので、労働時間がマッチしている」という声もある。

2.営業員に対する育成方針の見直し

①ハードルの引き下げによる営業員の定着化

  • 以前は、特に猶予期間などを設けず、入社月からすぐに成果・開拓軒数を求めるスタイルであった。また、営業員はフルタイムの専従従業員が基本であり、一人あたり月30軒の開拓ノルマを与えていた。しかし、仕事が合わないなどの理由で退職するケースが多く、営業員が固定できなかった。
  • 令和3年のシニア採用のタイミングで教育方針を見直し、営業活動に対するハードルの引き下げを行った。勤務時間の限られたパートを営業員とし、ノルマも月10軒に引き下げた。
  • 令和2年4月~令和3年9月までの1年半の間に採用した4名の営業員は、期間中に全員が退職した。一方、上記見直しを図った令和3年10月以降は退職者が激減し、7名の採用に対して4名が定着している。特に、シニア世代は5名の採用に対して4名が定着しており、方針を見直した効果が大いに発揮されている。

②育成期間の設定

  • 入社後最初の3カ月間は、お試しサンプルをお客様へご案内する作業専門とし、商品知識を覚える期間を設けた。従来は全て即決営業であったが、サンプル営業に営業方法自体を変更した。
  • リーダーが中心となり、従業員の活動内容を見極めながら(目安として1~3カ月)、徐々にお客様に商品知識をお伝えする活動に力を入れている。

3.お客様とのコミュニケーション

①対面営業による情報提供

  • 実際に営業がお客様のお宅を訪問し、身振り手振りで正しい商品知識をお伝えすることで、メーカーの高品質な商品の良さをお届けすることができている。
  • 商品の良さを理解し、納得して試していただいているため、長く続けてもらうお客様が多く、解約率は約2.5%と低い水準で推移している。
  • 特にシニア層の活用以降は、お客様と同世代の営業員がコミュニケーションを取ることから、お客様との距離もより一層近くなっている。

②おはようカードの活用

  • 高齢者のお客様が多いことから、今どきの電子ポイントではなく、昔からなじみのある「現物を貯める感覚」を大事にしている。そのために「おはようカード」というポイントシステムを活用、実際にカードをお渡しし、「貯める感覚」を楽しんでもらっている。
  • このシステムでは、長い付き合いになればなるほど豪華な景品(掃除機など)になっていくため、高齢者のお客様との長いお付き合いにもつながっている。最初に多めにカードを渡すなど、できるだけ長く続けてもらうための工夫を施している。

③「家計応援」をテーマとしたキャンペーンの実施

  • 価格改定を案内するタイミングでサービスクーポンを全顧客へ配布。乳業に限らず様々な食品が値上げする中、少しでもお客様の「家計応援」の手助けになればとの思いで、お客様とのコミュニケーションツールとして活用している。
  • クーポンは3カ月連続で使えるものであり、11月は瓶商品、12月はヨーグルト、1月はデザート2品のクーポンが一綴りになっている。

その他ツールを使ったコミュニケーション

  • 「視力検査表」や「脳トレテスト」など、視覚的にも分かりやすいツールを使い、シニア層であるお客様とのコミュニケーションに活用している。
  • 年始には「雪とうふ」とミルクカレンダーを配布。また、毎月オリジナルセット販売を実施するなど、ツールを活用しながらお客様との定期的なコミュニケーションを図っている。

4.職場内でのコミュニケーション

①従業員同士のコミュニケーション

  • 毎朝営業ミーティングを実施し、営業員同士で積極的にコミュニケーションを取っている。「この言い回しのほうが良い」といった情報共有を日々行うことで、お互いのレベルを高め合っている。
  • 営業員別の月別拡張実績はホワイトボードに表示。ノルマに対する進捗状況が視覚的に把握できるように工夫している。
  • 配達員同士の情報共有は、メモを冷蔵庫に貼りだすことで共有している。
冷蔵庫のメモで情報共有
営業員別 拡張実績表

②経営者と従業員とのコミュニケーション

  • 毎月の給料は手渡しで支給。その際に従業員との個人面談を行っている。
  • 従業員の悩みや変わったことなどを聞くことに注力しており、これが経営者・従業員間の貴重なコミュニケーションの時間になっている。

5.品質管理の徹底

①品質プレミアムを取得

  • 衛生管理に留意し、お客様にお届けするまで品質管理を徹底している。
  • 雪印メグミルクの全70項目の厳しい審査に合格。東北で4~5店しか存在しない「雪印メグミルク品質プレミアム」を取得している。
冷蔵庫 温度管理表
Sランク認定証
冷蔵庫 清掃記録
冷凍庫内の保冷シート

経営専門家の意見

該店は、高齢化率が全国トップクラスである山形県庄内地域で営業を行っている。その中で、かつては若者を雇用して積極的に拡売を進めようとしていた時期もあった。しかし、「高齢化」という地域内の避けられない社会問題に対し、該店も主体的に携わっていくことにより、お店としての考え方や取り組み自体が大きく変わっていったように感じる。

例えば、「ゆとりある働き方」を推進するようになり、これまでフルタイムの専従従業員が中心であった営業員にシニア層のパートを活用するようになった。また、それに伴って、商品を覚えるまでの育成期間を設定したり、ノルマを引き下げたりといった「働きやすさ」を重視した取り組みへの転換もあった。さらに、お客様と同世代のシニア層が訪問することで、お客様との距離が縮まるなど、お客様とのコミュニケーション面においてもプラスの効果につながった。

お店にとっては、シニア層が働きやすい環境を整備したことにより、定着率が高まり、「働き手不足」という問題解消につながっている。一方、それが「高齢者雇用」という地域の問題への貢献にもつながり、地域とお店・双方にとってプラスの効果をもたらしている。

「高齢化」や「働き手不足」「高齢者雇用」といった点は、今や全国共通のテーマになりつつある。シニア層の雇用・戦力化という面において、ぜひ他店でも参考にしていただきたい優良事例である。

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