第33回 牛乳販売店優良事例発表会

(一社)全国牛乳流通改善協会

最優秀賞

農林水産大臣賞「お客様の家族仲をよくする牛乳配達」
を全社で実践

株式会社南山デイリーサービス
代表者南山 泰政

ここがポイント

  1. ①既存顧客への「スマイルコール」で顧客満足度アップ
  2. ②行政と連携した「お元気確認サービス」
  3. ③業務マニュアルを作成して「見える化」実現

発表店概要

販売店の歴史及び代表者(発表者)の経歴

1960年
先代が森永アイスクリームを卸販売する目的で前身である南山商店を創業。平成元年、現社長がイトーヨーカドーを退職しUターンし営業部長として入社。
1994年
取引先は量販店が多く薄利であり、売上の季節変動が大きいため乳製品卸も始めたが、人材確保や資金繰りなど厳しい経営が続き、宅配事業に参入した。
2000年
宅配事業の拠点として十和田市に支店を開設。その後、三沢・盛岡・秋田・に支店を開設。2020年には廃業店を引き受け青森市に支店を開設した。
2011年
公益財団法人21あおもり産業総合支援センターの支援を得て「お元気確認サービス(安否確認サービス)」を開始。
2015年
自前で実施していた買物弱者支援事業を発展させ「移動スーパーとくし丸」の地区本部を開始。
2016年
「夫婦(家族)の絆・思いやり」のお手伝いに繋がる新しい営業手法に基づくシステムについてビジネス特許として出願し、平成28年12月に特許権を取得。

店舖概要と立地環境

(1)牛乳関連店舗・設備

  店数 冷蔵庫 冷凍庫 自販機 ショーケース
本店 1店 8坪 5坪 6台 7台
支店 5店 10坪 13坪 2台
  • 十和田市・三沢市・青森市・盛岡市・秋田市に支店を開設。自販機は本店と盛岡店で管理。ショーケースは本店で全て管理。自販機のロケ先は八戸駅横の観光施設「ユートリー」、整形外科、高齢者施設、家具販売店休憩所、温浴施設、森永乳業盛岡工場 等。ショーケースは職域に設置し購入者がお金をボックスに入れる「置き森」が7台で、整形外科休憩所、施設休憩所、幼稚園休憩所、葬祭施設休憩所、等に設置。

(2)牛乳関連営業用車両台数

保冷車 冷蔵車 軽トラック 軽ワンボックス その他 持込車
3台 10台 4台 65台
  • 保冷車3台は本店で卸先への納品に使用。軽バンと普通車は主に営業用。持込車ではマットと蓄冷材を使い、全て宅配で使用している。

(3)牛乳関連従業者数

  経営者 家族従業員 専従従業員 パート
アルバイト
合計
男性 1人 4人 18人 23人
女性 1人 2人 67人 70人
合計 1人 1人 6人 85人 93人
  • 三沢店を除き、本店と各支店には専従の従業員を置き、店舗の管理を任せている。延べ人数は本店36人、十和田店9人、三沢店5人、青森店17人、盛岡店15人、秋田店11人。パートアルバイトは男性18人、女性67人。

(4)経営状況

①令和2年製品別売上高(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 104.9 86.8
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 125.1 7.5
牛乳関連合計 106.3 94.4
宅配卸以外の売上計 130.4 5.6
合計 107.4 100.0
②令和2年業態別売上高(%)
業態 前年比 構成比
宅配 106.2 78.9
卸(小売) 108.8 15.1
自販機 69.0 0.4
集団 0 0
その他 130.4 5.6
合計 107.4 100.0
主な卸先
  • 陸上自衛隊、海上自衛隊給食
  • 病院、施設、保育園給食
  • 八戸市市生協売店(市役所売店、水道部売店)
  • 高校売店、病院売店 等
③令和2年粗利益(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 103.7 96.7
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 139.0 3.3
牛乳関連合計 104.6 100.0
粗利益率 47.9
  • 卸売が売上全体の15%を締めているが、宅配とほぼ同じ条件での納品先が多く、高い粗利益率を維持できている。
④配達の状況
配達
時間帯
コース数 集金方法(軒) 日均
本数
毎日 週3 週2 週1 訪問 振込 引落 合計
早朝     11     43   444 171   658 4399本
午前   2 131     4183   972 17 3 5175
午後                      
夜間                      
その他                      
合計   2 142     4226          
  • 早朝は青森店のみ。週3は十和田店のみ。新規も含め週2の午前配達が中心。対面手渡しを原則にしており、集金は配達員が月末月初の10日程度で行う。

(5)立地環境

  1. 当社の営業エリアである北東北3県(青森県、岩手県、秋田県)は全国有数の高齢化率、そして人口減少率については全国最大の秋田県、2位の岩手県、3位の青森県と急速に少子高齢化が進んでいる地域。対面手渡しを配達の中心に置いている当社にとっては有利な状況でもある。
  2. 本社も含め6ヶ所の営業拠点はいずれも市街地から車で10分程度の距離にあり、人口が集まっている地域である。少子高齢化が進んでいる地域ではあるが営業及び配達の効率は悪くはない。また、配達スタッフも集めやすい立地である。

経営方針

経営ビジョン

  1. 地域になくてはならない企業を目指し、地域社会に貢献します。
  2. 自立した企業として、かかわりある人たちの幸福を追求します。
  3. 未来へ挑戦する集団を目指します。

経営理念

  1. お客様に、安全・安心な商品を、心のこもったサービスと共に提供することで、メーカーと消費者との橋渡しをする、地域になくてはならない企業になります。
  2. 地域密着型の自立した経営基盤をもった高収益の優良企業になります。
  3. 一人ひとりの従業員が個人の能力を最大限に発揮し、生き生きと働くことの出来る、全員参加型経営の企業になります。

コーポレートスローガン

「お客様の健康と笑顔のために。」

私たちは「お客様に安心・安全な商品を心のこもったサービスと共に提供し、お客様の健康と笑顔を追求する」ことを使命としております。

宅配事業コンセプト

私たちの目的は牛乳をお届けすることであり、牛乳をお届けすることは夫婦関係(家族関係)を良くすることである。

活動内容

1.特許を取得したシールを使う拡販手法で一軒当たりの本数増加

①家族間コミュニケーションシールでビジネスモデル特許取得

  • 2012年末に社会情勢の急激な変化や同業・異業種競合が激化する中、宅配事業のあり方研究のため八戸学院大学教授の指導の下「コンセプトワーク」をスタート。
  • 「家族仲をよくする牛乳配達」のコンセプトに辿り着き、訪問時対応した1人ではなく家族など潜在的なニーズを引き出すコミュニケーションツールとしてシールシートを開発。このシールを活用し訪問先データを集計し、傾向分析できるシステムで、2016年12月にビジネスモデル特許権を取得した。
  • システム開発していく中で商標権取得にも取り組み、現在4件の商標権を取得した。

②サンプル配布時に飲んで欲しい家族にメッセージシール

  • サンプルを渡すときにご家族にも飲んでいただくに、飲んで欲しいご家族のシールをサンプルに貼る。
  • サンプルで提供する商品のシールを更に貼る。
  • ご家族に健康上の不安があれば該当するシールを更に貼る。
  • 伝えたいメッセージのシールを更に貼る。

③残ったシールを確認してお客様DB作成

  • 残ったシールはそのままにして、台紙の裏側にお客様のお名前と住所と営業情報を記入する。
  • 事務所に持ち帰り、お客様に渡したシールと台紙裏の営業情報をデータベースに登録する。
  • 登録した情報を活用してその後のフォローを行う。

④ロールプレイングでシール拡販手法を身に付ける

  • 独自の「シールを使った」拡売手法をマニュアル化。研修で教育。
  • 女性パートタイマーを中心に、毎日ロールプレイングをおこない習得し、個人の獲得予算達成に向け取り組んでいる。

2.既存顧客への「スマイルコール」で顧客満足度アップ

①本店の内勤とテレマスタッフによる既存顧客のフォロー

  • 「増本や落本対策・御用聞き・情報収集」を目的として、内勤事務やテレマスタッフが既存顧客と配達時会うことができない御客様に、定期的に電話をかける。
  • 事務のIT化によって、生み出された時間を有効活用。

②顧客台帳に載っているお客様全部に「スマイルコール」

  • 販売拠点(支店)別に顧客リストを作成して、毎日順番に電話をかける。
  • 1拠点2から3ヶ月で一巡する。

③宅配システムに「スマイルコール」の結果を入力

  • お客様から聞いた情報は宅配システムに書き込み、全社で情報を共有する。
  • 配達員には直接話すことができない問題点やクレーム等を聞き出す。

④既存顧客には独自のクーポン券で満足度を更にアップ

  • コンセプトが「家族仲、夫婦仲をよくする牛乳配達」ということから、家族(夫婦)で飲んでいただくことへのお礼として「家族割(夫婦割)」クーポンを進呈。
    「週14本以上お申し込みのお客様」には「2000円クーポン券3枚」等。
  • 飲用継続月数等の条件から算出し、本数に応じてクーポン券の枚数等を決定する。

3.行政と連携した「お元気確認サービス」

①東日本大震災の経験から生まれた「お元気確認サービス」

  • 停滞していた宅配事業を見直す目的で2010年にお客様アンケートを実施し、主たる顧客層である高齢者に対するサービスの見直しと検討を始めた。その最中の2011年3月に東日本大震災が発生した。商品が無い中、全てのお届けスタッフが出勤しお客様の安否確認に出向きお客様から感謝されたことから使命感が醸成された。震災後に(公財)21あおもり産業総合支援センターから助成を得て、「お元気確認サービス」がスタートした。
  • 2011年より希望されるお客様に無料で見守りサービス「お元気確認サービス」を提供し、既に10年目を経過している。北東北3県(青森、岩手、秋田)の16市町村と協定等締結し連携。行政と連携することでお客様の安心感・信頼度が高まり、スタッフの牛乳宅配事業の使命感・モチベーションが高まっている。
  • お客様の異変に対し早めの対応をすることで深刻な状況にならなかったことも多々あり、ご家族や市町村からも高い評価を得ている。2018年には秋田市の紹介で米国最大の非営利団体であるAARP(全米退職者協会)の発行雑誌「THE JOURNAL」に掲載された。

②おいしい健康食のレシピを提供する「レシピ宅配便」

  • 高齢者が医療や介護を必要としない健康な生活の維持・向上を目的としたサービス。
  • 奥山綾乃氏(管理栄養士、健康運動指導士、食育インストラクター、食生活アドバイザー)の監修と指導を依頼し、「おいしい健康食レシピサービス」として「レシピ宅配便」を毎月発行。
  • 時節に合わせて乳製品等に含まれる成分や素材をわかりやすく解説し、乳製品等を使用した「ヘルシー、おいしい、簡単」レシピを印刷してお届けする。

③健康情報を伝える「ちえこ先生の健康通信」

  • 健康についての情報の提供することによって、お客様が健康で要支援・要介護とならないことをめざしてサービスを開始。
  • 佐藤千恵子氏(八戸学院大学健康医療学部人間健康学科准教授、管理栄養士、食生活アドバイザー)に依頼し、健康情報や食生活にまつわる歴史や食育や子ども食堂等、幅広いお話しを「ちえこ先生の健康通信」として毎月発行。

4.VPNを活用して本支店のリアルタイムネットワーク構築

①VPNとミニサーバーで本支店の宅配を一元管理

  • 事務処理の流れやルールが事業所ごとにバラバラでデスクワークが煩雑となったため、社内でプロジェクトチームを発足させ、事務の業務改革を目指した新業務フローを作成、改革を実行した。本支店間にVPNを敷き、本社に小型サーバーを導入し、事務機能を集約。宅配ソフトもネットワーク対応に変更した。
  • 顧客情報・販売情報・社内文書等は全て本社サーバーに保存し、本支店どちらからでも利用可能。パスワード等でセキュリティ管理を実施。
  • 事務処理時間の大幅な短縮、通信費等のコストの削減、スタッフの営業時間の確保と事務処理能力の強化を図ることができた。

②サイボウズ(グループウェア)を使い全社で情報共有

  • 情報交換を社内に限定するために、クラウド型のグループウェアであるサイボウズを導入。社内メールやスケジュール管理等に活用。

CHATWORK(ビジネスチャットサービス)で事務職の即時情報共有

  • 役職者や事務職間では、即時に情報を共有できるチャットサービスを利用。グループ化して、グループメンバーの1人が投稿すればメンバー全員に情報を伝え、チャットでメンバー全員が意見を交換できる。
  • セキュリティを確保するため、有料のビジネス向けチャットサービスである「chatwork」を導入。

④リモート会議で効率的な会議運営

  • 毎月、全店責任者会議を開催している。コロナ前は責任者が本社に集合し会議開催していたが、現在はZOOMにより責任者だけではなく内勤者も会議参加し情報共有している。
  • リモート会議は社内だけでなく、取引先や仕入れ先等との社外関係者とも行っており、効率が良い新たな打合せツールとして定着している。

5.新型コロナにも対応できる「事業継続力強化計画(BCP)」策定

①東日本大震災を経験し重要性を認識

  • 東日本大震災の被災地域でもあり、更に昨年5月、新型コロナウイルスの感染が拡大したことにより事業継続計画(BCP)の必要性を痛感。外部専門家と弊社スタッフにより計画策定をスタートさせた。

②次の3点を目的としてスタート

  • 「自然災害発生時において、人命を最優先として、社員と社員の家族の安全と生活を守る」
  • 「地域社会の安全に貢献する」
  • 「宅配商品やお元気確認サービス提供の継続、又は早期の再開により、お客様への影響を極力少なくする」

③自然災害(地震や津波等)対応

  • 事業拠点のハザードマップを確認し、事業活動への影響(人員、設備、資金繰り、情報データ等)を想定。これらに対して資金繰りの対応(必要資金や調達方法)、データ管理(クラウドへのバックアップ)等を記述。

④新型コロナウイルスへの対応

  • 感染者や濃厚接触者になった場合を想定した職種別事前対策(テレワーク環境整備やスペアスタッフ対応等)、店舗別消毒液やマスク数量、お元気確認サービスの提供方法等を記述。

⑤「事業継続力強化計画」は2020年10月13日認定

  • この計画は令和2年9月に経済産業省東北経済産業局に「事業継続力強化計画」を認定申請し、2020年10月13 日認定された。

6.業務マニュアルを作成して「見える化」実現

①IT導入と並行して業務マニュアルの整備に着手

  • 宅配事業参入後、様々な取組にチャレンジしてきたが、営業手法・サービス・店舗運営基準、等が未整備であった。
  • 「担当者が自らの業務が見えていない」「業務の基準が明確になっていない」という課題に直面し、業務が曖昧で属人的となっていたことが判明。

②過去の取り組み資料やマニュアルをまとめ「業務マニュアル」策定

  • 店舗運営平準化を目指すことを目的として、過去の取り組み資料やマニュアルをまとめ「業務マニュアル」を策定。本社サーバーに保管し全社スタッフが閲覧できるようにした。
  • 営業手法や商品マニュアル、配達業務、サービスマニュアル、落本対策、研修資料やクレーム対応や社内書類書式等、多岐にわたる。

進捗管理と改訂

  • 業務マニュアルは策定することが目的ではなく、運用し最善のものにバージョンアップすることが最も重要なことと考えている。担当チームを編成し定期的に進捗を確認し、必要に応じて見直しと改訂を行っている。

④責任者会議の実施

  • 毎月、全店責任者会議を開催。各店には年間予算があり予算達成目指し、毎月PDCA資料による実績管理を実践しています。各店セールス個人毎、各店獲得実績、お届けスタッフ個人毎の落本実績について協議。
お届けスタッフ会議の実施
  • 毎月中旬開催のお届けスタッフ会議では連絡事項、当月販促企画状況、翌月販促計画、クレーム報告、落本対策、お客様へのサンプル課題等について協議。
研修会の定期的な開催
  • スキルアップを目的として商品知識や営業手法についてセールスだけではなくお届けスタッフ、内勤者も含めた研修会を定期的に開催。

⑤マニュアルを活用する幅広い営業手法への取り組み

  • セールススタッフによる営業:女性パートタイマーが中心で、セールスの基本である戸別訪問セールスをコンセプトに基づく弊社独自の「シールを使った」拡売手法をマニュアル研修と毎日ロールプレイングにより習得し、個人の獲得予算達成に取組む。(コロナ禍により試飲会セールスは現在休止)
  • テレマスタッフによる営業:テレマスタッフがアポ取りからクロージングまで担当する手法と、アポ取り後にお届けスタッフがサンプル持参とクロージングする手法で実施。
  • お届けスタッフによる営業:自らの地区の休眠顧客訪問や既存顧客へプラスワン、また向こう三軒両隣へのセールスを行い、担当地区の落本軒数を補い、現状軒数維持を目指す。

経営専門家の意見

1994年に宅配事業に参入して以来、積極的な支店展開と地元商業者と連携する様々な販売促進に取り組んできた。商業活動として単に収益を求めるだけでなく、行政体の支援を受けて、出店地域のお客様の生活を支える活動を実施していることは高く評価できる。東日本大震災と新型コロナ感染拡大は当社に新たなチャレンジテーマをもたらした。地域のお客様との「触れ合い」と企業としての「平準化された運営の確保」である。業務マニュアルを整備し、社内情報ネットワークを構築する一方、営業活動では「お客様との触れ合いと信頼」を最優先している。2010年に実施したお客様アンケート調査で宅配の主なお客様が高齢者であることを再確認し、高齢世帯が元気に生活する為に当社ができることを、順次実施している。調査から、高齢のお客様は和菓子に興味があること分かった。地元の和菓子メーカーと検討を重ねた結果、牛乳を使った「羊羹」が開発され、注文をいただける状況に発展している。経営の合理化を進めながら、お客様とスタッフの「元気」を追求する経営は高く評価できる。

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