第36回 牛乳販売店優良事例発表会

(一社)全国牛乳流通改善協会

優秀賞

一般社団法人 全国牛乳流通改善協会会長賞最北の地から
“人手不足解消”を目指す

菊地商店
代表者水澤 富喜子
発表者水澤 智喜
(代理発表)水田 雅也

ここがポイント

  1. ①テレアポ営業の工夫
  2. ②人員不足の解消
  3. ③宅配以外の取組

発表店概要

販売店の歴史及び代表者(発表者)の経歴

(1)販売店の歴史

  • 該店の歴史は、現代表者・水澤富喜子氏の祖父である菊地喜代治氏が酪農業を始めたことから始まった。当時、10数頭の乳牛を飼育し、その搾りたての牛乳を近隣の人々に販売したのが原点であった。その後、富喜子氏の父・菊地喜一氏が2代目を継ぎ、それを幌延町近郊の住宅に宅配するようになった。これが宅配牛乳事業のスタートである。
  • 昭和40年頃、2代目・喜一氏の急逝により、奥様の菊地ハナ子氏が3代目に就任した。しかし、ハナ子氏が病気を患ったことをきっかけに、牛乳の生産・加工・販売を一貫して行う負担が大きくなり、その後は雪印メグミルクの宅配・販売業に専念する形へと転換した。

(2)代表者の経歴

  • 現在は、3代目・ハナ子氏から引き継いだ4代目の水澤富喜子氏が代表を務めており、そのご子息である水澤智喜氏が5代目として実質的な経営を担っている。該店は、北海道でも有数の歴史を誇る牛乳と共に成長してきた店舗の一つである。
実質経営者の水澤智喜氏
稚内支店・店頭の様子

店舖概要と立地環境

(1)牛乳関連店舗・設備

  店数 冷蔵庫 冷凍庫 自販機
本店 1店 1坪 2坪 8台
支店 1店 1坪 1坪 3台
  • 該店は、幌延町にある本店と稚内市にある稚内店の2店舗体制で運営している。なお、稚内店は、水澤智喜氏の父が経営する運送会社の建物の一部を借用し、営業を行っている。
  • 代表者の水澤富喜子氏が本店を、また実質経営者である水澤智喜氏が稚内支店をそれぞれ管理している。
本店・店頭
本店・冷蔵庫
稚内支店・冷蔵庫内
稚内支店・店舗内

(2)牛乳関連営業用車両台数

保冷車 冷蔵車 軽トラック ライトバン 二輪車等
その他
持込車
1台 2台 3台
  • 令和6年度から新たに学校給食に参入しており、冷蔵車を使った配達を行っている。

(3)牛乳関連従業者数

  経営者 家族従業員 専従従業員 パート
アルバイト
合計
男性 1人 1人 2人
女性 1人 1人 4人 6人
合計 1人 2人 5人 8人
  • 家族従業員は、実質経営者の水澤智喜氏と事務を担当する長女の2名で構成されている。
  • パート従業員は、本店の配達スタッフ3名、稚内支店の配達スタッフ1名、さらに在宅でテレアポを専門に行う大分県在住のスタッフ1名の計5名体制である。

(4)経営状況

①令和5年製品別売上高(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 103.4 100.0
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 0.0
牛乳関連合計 103.4 100.0
宅配卸以外の売上計 0.0
合計 103.4 100.0
②令和5年業態別売上高(%)
業態 前年比 構成比
宅配 100.0 60.0
卸(小売) 100.0 6.7
自販機 112.5 30.0
集団 100.0 3.3
その他 0.0
合計 103.4 100.0

③令和5年粗利益(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 112.1 100.0
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 0.0
牛乳関連合計 112.1 100.0
粗利益率 43.3
  • 地域内の人口が著しく減少する中、宅配に関しては、新規獲得に注力することで、現状維持を保っている。
  • 自販機については、温浴施設「ヤムワッカナイ温泉 港のゆ」が、外国人観光客の増加によって好調であり、その影響により増加している。
  • 令和6年度からは学校給食にも参入しており、次年度は更なる収益の増加が見込まれる。
④配達の状況
配達
時間帯
コース数 集金方法(軒) 日均
本数
毎日 週3 週2 週1 訪問 振込
CVS
引落 キャッシュレス 合計
早朝     2     50 20 10 90   170 350本
午前     4 2   50 50 10 230   340
午後                      
夜間                      
その他                      
合計     6 2   100 70 20 320   510
  • 配達員不足により、配達の時間帯を早朝から午前へと変更し対応している。
  • 集金方法は、かつてはコンビニ集金がメインだったが、コストやお客様ニーズを踏まえ、袋集金や引き落としへと変更しつつある。なお訪問集金は昼配時に配達員が行っている。

(5)立地環境

  1. 本店は、宗谷本線幌延駅から徒歩10分程度の住宅地に立地している。少子高齢化・人口減少に歯止めがかからないエリアであり、近隣地域での拡販はかなり難しい状況である。
  2. 平成22年4月に近隣の最大都市である稚内市(人口30,000人、17,000世帯)に支店を開店し、展開している。また、現在は稚内だけではなく近郊のエリアにも営業範囲を広げつつある。
  3. 地域内に宅配牛乳の競合店はなく、宅配飲料の競合として挙げられるのはヤクルトのみである。地域内にはセイコーマートを中心に牛乳の製造・販売を手掛ける豊富牛乳の本社工場がある。

経営方針

①経営理念

生産者として地域の人々に安心安全な牛乳を真心こめてお届けしてきた歴史と誇りを忘れず、おいしく安心安全な乳製品を笑顔と共にお届けすることで、地域の人々の健康と喜びを実現します。

②行動指針

お客様に満足をしていただくために、小さな要望にもお応えし、毎週毎であってもご希望の商品を変更してお届けできる体制を作り上げます。お客様の健康と喜びを実現するために、全国から選りすぐりの健康関連商品と健康情報を集め、毎月のチラシを通じて、お客様に情報発信を行います。

③経営方針

卸部門の売上維持と宅配部門の拡張により、売上アップと構成比アップへと移行し地域に密着した、お客様とのコミュニケーション強化をしていく。

活動内容

1.テレアポ営業の工夫

①在宅テレアポ営業

  • 地域内の人手不足は深刻化しており、営業スタッフを求人募集しても反応がない。こうした状況を踏まえ、地域に関係なく勤務できる“在宅ワーク”によるテレアポに着目した。
  • 在宅ワークの求人募集を行った結果、多くの応募が集まった。特に、以前に牛乳販売店でテレアポを行っていたスタッフが、コロナ禍での職の喪失をきっかけに求人に応募するケースが増えているとの情報があった。その結果、宅配牛乳のテレアポ経験を持つ大分県在住の主婦1名を採用することができた。

②電話でクロージングまで完結

  • 人手不足に加え、商圏内の移動距離が片道90kmと長いため、営業効率の低さが大きな課題であった。さらに、冬場は積雪の影響で長距離移動が難しくなり、営業エリアを近隣に限定せざるを得ない状況が続いていた。こうした理由から、電話でアポイントを取り、営業が訪問する従来の対応方法には限界を感じていた。
  • こうした状況を踏まえ、テレアポスタッフが、アポイントだけでなくクロージングまで電話で完結するやり方に着手した。なお、現スタッフが勤務し始めた令和6年9月から本格的にスタートし、その後週1~2軒ペースで順調に獲得できている。
  • この取り組みにより、スタッフが新規先に訪問する必要がなくなったことで、営業効率が大幅に向上している。さらに、積雪で移動が困難な北海道の冬季においても、電話を活用することで広範囲での営業活動が可能となり、活動の幅が大きく広がった。

③テレアポスタッフの教育・コミュニケーション

  • アポイントに加えクロージングまで行う過程で、“地域性”という新たな課題が浮上した。田舎の顧客は都市部とは異なる価値観や反応を示すことが多く、地域性への理解不足がクロージングの妨げとなるケースが多かった。この課題を克服するため、地域外の人材が現地特性を理解できるよう、リモート研修の実施や地元営業パートナーとの連携、さらにはフィードバックの活用を通じて、地域性に関する知識を深める取り組みを進めている。
  • テレアポ用のマニュアルは前任者が作成したものを引き継ぎ、現在も使用している。このマニュアルにより、直接顔を合わせることが難しい遠方スタッフへの引継ぎも円滑に行うことができた。
  • 日々の活動報告や相談は、LINEや電話を活用して行っている。仕事上の相談に加え、プライベートな相談も含めて密なコミュニケーションを図っている。

2.人員不足の解消

①道外のスタッフを雇用

  • 少子高齢化や都市部への人口流出により、地方での人手不足が深刻化している。特に都市部以外の顧客に対する営業活動は難航しており、稚内市の求人倍率は北海道内でも上位で、全国的にも高水準である。この状況を受け、地域外から人員を確保する必要性が高まり、在宅対応可能なテレアポの導入に着目した。
  • 在宅ワークの求人募集を実施した結果、多くの応募が集まり、最終的に宅配牛乳のテレアポ経験を持つ大分県在住の主婦1名を採用した。日々の報告や連絡にはLINEや電話を活用し、週4~5日のペースで勤務してもらっている。

②昼配への移行

  • 人手不足や業務量の増加の影響により、従来行っていた早朝での牛乳配達が困難となったため、配達時間を午前中に変更した。この変更により、募集可能な時間帯が広がり、人員確保の課題が改善された。
  • 昼配への移行により、配達中に集金を兼務することが可能となり、業務の効率化が図られた。また、配達時の顧客とのコミュニケーションが増え、落本防止にもつながった。一方で、早朝配達を希望していた一部の顧客が離れる結果となり、1コースあたり5~6件の中止客が発生した。

3.キャッシュフローの改善

①集金方法の見直し

  • 以前は約500件のうち300件以上がコンビニ払いを利用していたが、コンビニ手数料の高さや専用振込用紙のコスト負担が課題であった。これを受け、コンビニ払い利用者に対して手数料の導入と集金方法の変更を案内し、新たに袋集金とゆうちょ銀行引落の選択肢を提示した。
  • その結果、コンビニ払いの件数は約70件に減少し、多くが袋集金に移行した。これにより、入金期間が短縮されるとともに、手数料削減によるコストカットが実現し、キャッシュフローの大幅な改善につながった。なお、この変更に伴う落本は発生しなかった。

②昼配による効果

  • 昼配への移行によって早朝の割増賃金が削減でき、その結果コスト削減につながった。また、配達スタッフが配達時に集金を行うことにより、集金業務にかかる効率化も実現できた。

4.宅配牛乳以外の取り組み

①学校給食への参入

  • 安定した需要が見込まれるうえ、地域社会にも貢献できるという点を踏まえ、今年度から学校給食に新規参入した。牛乳は地元業者との価格差が大きく参入が困難であったが、デザートやヨーグルト等の商品を活用することによって参入を実現した。
  • 給食センターも慢性的な人手不足であるため、各学校への仕分けから配達までを一括で担うことにより、大変重宝されている。また学配の際は、児童の登校時にあいさつを交えたパトロールを実施し、安全・防犯活動にも貢献している。

②農家直送の米・野菜の販売

  • 義兄の実家が農家であることを活かし、そこで収穫された米を二次品として販売している。またキャベツ、大根、白菜などの野菜も同様に農家直送品として取り扱い、顧客から高い評価を得ている。
  • 独自のチラシを作成・配布するなどの工夫を施し、販促活動を積極的に展開している。
お米のチラシ(表)
お米のチラシ(裏)

経営専門家の意見

「働き手不足」と「市場の縮小」は、人口減少が進む地域で広く見られる課題である。該店は、これらの課題に対して様々な工夫を重ねながら経営を続けてきた。その代表的な取り組みが、在宅スタッフによるテレアポの導入である。地域外の人材であっても、地域性を理解すれば業務が可能である点に着目し、テレアポマニュアルの整備やLINEを活用した密なコミュニケーションによって、地元以外の人材を活用している点は大きな特徴といえる。稚内と大分という2,500km以上離れた地域で、風土や文化が異なる環境からスタッフを雇用し、成果を上げている点は大変印象的であり、過疎化が進む地域における新しい雇用モデルとして評価できる。

また、テレアポでクロージングまでを完結させる仕組みや、集金方法をお客様とのトラブルや安全面で課題があるとされた袋集金にあえて変更することで効率化を優先した取り組みも地域の特性として目を引く。「新しいことをやらないと増えることはない」という水澤智喜氏の言葉には、現状に満足せず、常に挑戦を続ける姿勢が表れている。数年後に5代目を引き継ぐ予定の智喜氏が、さらに革新的な取り組みで地域を盛り上げ、該店が日本最北の地で地域ビジネスのモデルとなることを大いに期待する。

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