第36回 牛乳販売店優良事例発表会

(一社)全国牛乳流通改善協会

優秀賞

農林水産省畜産局長賞お客様の要望を100%叶えたい!
「ないんや」と言われない品揃え

株式会社クエスト
ミルキスト

代表者澤田 厚

ここがポイント

  1. ①顧客満足の追求
  2. ②業務の効率化
  3. ③スムーズな事業承継(代理店方式)

発表店概要

販売店の歴史及び代表者(発表者)の経歴

代表の澤田厚氏
  • 1998年に読売新聞の販売店として創業した。2005年には森永乳業の正規代理店として契約し、顧客ゼロからスタートした。その後、ノーベルの取引を開始した。
  • 2005年には、滋賀県北部の彦根市、長浜市の店舗を引き継ぎ、徐々に拡大し、毎日牛乳の取引も開始した。
  • 2018年から廃業店の引継ぎを加速化し、2019年に屋号を「ミルキスト」へ変更。
  • 2021年からは代理店システムをスタートし、明治の配達も開始した。
  • 2022年には雪印の配達を開始し、廃業店の引継ぎを継続しながら、現在に至る。
倉庫には各メーカーの受け箱等が並んでいる

店舖概要と立地環境

(1)牛乳関連店舗・設備

  店数 冷蔵庫 冷凍庫 自販機
本店 1店 2.5坪 1坪
支店 5店 12坪 4坪 2台
  • 湖南市、守山市、大津市、彦根市、長浜市を対象に「ゆうパック」での配達をしている。そのうち、湖南、彦根、長浜は代理店システムをとっている。

(2)牛乳関連営業用車両台数

保冷車 冷蔵車 軽トラック ライトバン 二輪車等
その他
持込車
1台 3台 8台 15台
  • 該店の配達員は全て外注で行っているため、持込車が15台と多い。

(3)牛乳関連従業者数

  経営者 家族従業員 専従従業員 パート
アルバイト
合計
男性 1人 3人 4人
女性 1人 2人 3人
合計 1人 4人 2人 7人
  • 専従従業員は新聞販売店と兼務の従業員もおり、牛乳販売店のみの従業員は区別できない。
  • 配達員については、全て外注で、委託契約を結んでいる。

(4)経営状況

①令和5年製品別売上高(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 84.0 28.0
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 0 0
牛乳関連合計 84.0 28.0
宅配卸以外の売上計 90.0 72.0
合計 88.2 100.0
②令和5年業態別売上高(%)
業態 前年比 構成比
宅配 83.8 27.6
卸(小売)
自販機 100.0 0.4
集団
その他 90.0 72.0
合計 88.2 100.0
  • 廃業店の引継ぎを積極的に行っているものの、売上高の減少は厳しい状況となっている。これは、売上高の多くを占めている宅配卸以外の売上高が急減したことによるものが大きいが、営業力が落ちてきていることが原因と考える。
③令和5年粗利益(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 87.3 100.0
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品
牛乳関連合計 87.3 100.0
粗利益率 50.8
  • 利益も前年比から大きく減少している。
  • しかし、利益率は50.8%と高水準を保っていると言える。
④配達の状況
配達
時間帯
コース数 集金方法(軒) 日均
本数
毎日 週3 週2 週1 訪問 振込
CVS
引落 キャッシュレス 合計
早朝                       2700本
午前     89 11              
午後                      
夜間                      
その他         2 105 2019 1224   550 3898
合計     89 11 2 105 2019 1224   550 3898
  • 振込、コンビニ払いがほとんどである。コンビニ払いについては、代金後払いもできるようにし、顧客の利便性を図っている。
  • また、手集金(訪問)に対しては、手数料100円を別途請求している。高齢者や山間部のお客様がまだ残っている。
  • 2018年からPayPay支払い、2019年全QRコード支払い、2023年100%入金保証付きコンビニ後払いとお客様の利便性を考え、多種類の支払い方法を導入している。

(5)立地環境

  1. 湖南市、守山市、大津市、彦根市、長浜市で営業展開し、滋賀県全域をカバーできる体制となっている。
  2. ゆうパックについては、西日本全域にお客様があり、遠くは九州まで協力会社と連携して、配送している。
  3. 該店は森永、毎日、明治、雪印と4大マーク他複数のマークの取り扱いがあり、他店ではみられないアイテムを持っているため、全てのマークの牛乳販売店が競合とはなるが、該店のように複数マークの取り扱いをしている競合店は少ない。

経営方針

  • 「スモールジャイアンツ」(小さくても偉大な企業)を目指す!を経営理念に掲げている。
  • 人口減少が避けられない以上、人に頼らず、DXによる効率化と外部企業との連携、直営店舗から代理店化などを推し進めながら、本部機能を小さくコンパクトにしながらも、拡大路線を継続し、企業価値を高め、自社の企業文化や方針をしっかりと確立し、次世代に引き継いでいく。

活動内容

1.顧客満足の追求

①お客様からの「ないんや」をなくす

大手メーカー4社の商品カタログ
  • 開業当初は森永乳業の正規代理店としてスタートしたが、現在は、雪印メグミルク、毎日、ノーベルなどの取り扱いメーカーを増加させている。
    お客様に「〇〇はないの?」と聞かれてもすぐに対応できるようにすることで、他の販売店への顧客流出がなくなり、廃業店を引き継いでもメーカー交代による顧客減少を避けることができている。
  • 顧客も配達店は変わるものの、今までと同じ配達、代金支払い、問い合わせシステムの中で商品変更ができるため利便性が高まり、顧客満足度が高まっている。

②牛乳以外の販売の拡大

  • 2021年からSakimoto Bakery、銀座にしかわの高級食パンの定期配送を始めた。毎月第3週の牛乳乳製品の配達と一緒にお届けしている。
  • 月末の請求書と共にパンの注文チラシを配布し、翌月中旬に配達している。配達には牛乳の宅配保冷ボックスを活用し、夏場でも商品劣化を防ぐことができている。
  • 現在、約800件のお客様からの注文がある。
パンのチラシと宅配ボックスに配達されたパン

③多岐にわたる支払い方法の導入

  • お客様の利便性の追求とスタッフの働きやすさ、効率を考え、昔ながらの手集金、袋集金を減少させ、多岐にわたる支払い方法を導入している。
  • 口座振替、クレジットカード、スマホ請求書払い、コンビニ払いを導入している。どうしても手集金しかできないお客様の場合は、手数料として月100円を商品代金とは別に請求している。
  • また、2023年からはコンビニ後払いを導入し、100%入金保証されることで未払い客ゼロへの取り組みを開始した。
  • コンビニ後払いは外注先の「後払い.com」を活用し、自社の請求業務の効率化を図っている。
クレジットカード払い
スマホ請求書払い
コンビニ後払い

④LINEでの発信とミルキスト便りによるコミュニケーション

  • 2017年より顧客との連絡方法を電話、FAX、メール、HPに加え、LINEを追加した。これによりお客様の利便性が上がり、お店とお客様との連絡が手軽かつ24時間連絡できるようになったことで、顧客からも好評を得ている。
  • また、LINEではお客様との個人的なやり取りだけではなく、お役立ち情報なども配信している。
  • 2013年5月より「ミルキスト便り」を発行している。2024年10月には138号を発行しており、お客様とのコミュニケーションに繋がっている。
LINE会員募集のチラシ
2024年10月 138号のミルキスト便

⑤ポイントサービス

ポイントサービス
  • 現在、100円お買い上げごとに1ポイントのポイントがたまる仕組みを導入している。現在は、毎月の請求書の支払いに使えたり、ミルキスト通販商品の購入ができるが、今後は、PayPayや楽天ポイント、アマゾンポイントなどへ交換できるようなシステムの導入の準備をしている。
  • これにより、顧客満足を高めるほか、今まで自社で行っていたポイントアンリやポイントに関する顧客対応も外注できることからスタッフの業務負担軽減につながっている。

2.業務の効率化

①昼配100%、週1配達

  • 該店は開業当初より配達時間は午前中~午後配達に特化している。新聞配達業を兼務する上で、人材確保の難しさは痛感していたため、労働力の集まりやすさを選択し、深夜~早朝配達は行っていない。
  • 昼配達にすることにより、新聞と牛乳の両方を配達する人材がでてきたり、小さな子どもがいる主婦の方の採用ができたりと人材確保がしやすくなった。
  • 現在は、引継ぎ店の深夜配達が一部残っているが、100%昼配に向けて取り組んでいる。
  • また、商品が瓶から大型ボトルへと変化したことから、賞味期限も伸びたことで、週1配達を増加させ、配達の効率化を図っている。

②電話対応ゼロ

  • 前述のとおり、2017年にLINEを導入した。これによりお客様からの連絡手段としてLINEが多く活用されるようになった。
  • 現在、LINEの登録者数は2,000件を超えており、森永の公式LINEと連携させることで、お客様の利便性を高めると共に、スタッフの顧客対応手法もLINEを中心にすることで、電話対応ゼロを目指している。

③外部委託配送の活用

ゆうパックのチラシ
  • ゆうパック・ヤマト運輸を利用した遠方のお客様への配送は年々需要が増加してきている。
  • 以前は自社において、それらの配送業務(ピッキング、梱包など)を行っており、スタッフの負担が際限なく増加していたが、現在は奈良県にある冷蔵冷凍の宅配基地として経営している専門業者と連携し、商品の受け入れ、梱包から配送まで一貫して業務を委託している。これにより、スタッフの業務負担は激減し、取扱数も大幅に増加させることができた。
商品の流れ

④働きやすい職場への改善

  • これまでは、従業員を増やし、業務ボリュームを増やすことで、売上を伸ばす手法を導入していたが、人材の確保が難しくなってきたことにより、少ない従業員、 最小の仕事量でいかに売上も伸ばしていくかに経営体制を変えてきた。
  • そのためには、アウトソーシングが必須であるため、該店では配達員は自社従業員ではなく、全て業務委託で行っている。

3.スムーズな事業承継

①代理店化

販売代理店契約書
  • エリアが拡大するに伴い、人材確保・効率化の観点から直営店での運営に限界を感じ、従業員スタッフではなく、同じ経営者として牛乳販売店をやってみたいという同士を募集し、責任をもってお店を運営していただく代理店システムを導入している。
  • 現在、湖南店、彦根店、長浜店が代理店であり、互いに協力をしながら牛乳販売店を盛り上げている。現在月に1度、メーカー同席のもと、営業成績や困っていることなどの会議を行い、問題解決に役立てている。

②引継ぎ店の店主を雇用

  • 高齢のため、後継者がいないからといった理由で牛乳販売店を廃業する店舗の引継ぎを積極的に行っている。廃業する店舗の店主は高齢といっても身体が動かないわけではないため、引継ぎ店の店主を配達員として雇用し、仕事を継続していただくようにしている。
  • そうすることで、スムーズな引継ぎにつながる他、お客様も配達してくれる人が変わらないことにより、安心感につながっている。
  • また、引継ぎは「お客様への販売の権利を購入する」というイメージで行い、廃業店には購入代金を支払っている。

4.拡販営業と将来に向けた展望

①拡販営業の実施

  • 現在、拡販要員として、女性1名が個人宅への拡販を行っている。
  • その他は、外注を活用し、月に10回程度、イベント販売を行っている。スーパーや郵便局で試飲してもらい、新規顧客の確保につなげている。
  • 営業活動をしないと顧客は徐々に減少していくことから、外注を活用しながら、積極的に営業活動を行っている。

②各事業の連携

  • 該店は、牛乳宅配業、新聞販売業、高級食パン製造販売業の3つの事業を主に行っている。これまでは、それぞれを独立したものとして運営してきたが、将来的にはそれぞれを融合させながら、事業として拡大していくことを目指している。
  • 単体としては、顧客の減少傾向の業種であるが、顧客の利便性を前面に打ち出し、  新たな商品などを取り扱い、外部とも連携することで、新しい「宅配事業」へと変化していきたいと考えている。

経営専門家の意見

お客様の要望には100%応えたい!というのが該店の基本となっている。

各種マークの取り扱いや乳製品とコラボしやすいパンの販売、そして、代金決済方法の多様化などお客様の要望を叶えるための努力は惜しまない企業である。

また、従業員の働きやすさを追求した業務改善方法として、電話などトラブルの危険性が高いものはなくすようにし、また、外注を上手に活用することにより、従業員の負担軽減はもちろんのこと、コスト削減にも役立っていると思われる。

廃業店の引継ぎも積極的に行っているが、業界的に今後も増加すると思われる廃業店への引継ぎ方法として、廃業店の店主の経験を活かした雇用への道筋、また、代理店制度など多くの学ぶべき点がある。

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