第36回 牛乳販売店優良事例発表会

(一社)全国牛乳流通改善協会

最優秀賞

農林水産大臣賞ITを活用した
“新しい宅配”への挑戦

タック有限会社
代表者大里 達美

ここがポイント

  1. ①ITを活用した効率的な営業体制の構築
  2. ②配達品質を高める取組
  3. ③顧客満足度向上のための情報発信・サービス

発表店概要

販売店の歴史及び代表者(発表者)の経歴

  • 昭和39年2月、現代表・大里達美氏の義父である向井氏が創業。当時は、宅配・卸・自販機・市場内店舗事業を行っていた。その後、昭和50年1月に(株)大乳を設立。
  • 昭和58年4月、現代表・大里達美氏の入社を機に宅配・自販機・市場内店舗事業から撤退し、量販店卸に集中。ただ、その後卸不要の時代となり、平成6年1月に改めて宅配事業に再度参入した。
  • 平成7年6月、タック(有)を設立、宅配事業の拡大に一層注力する。しかし、平成12年の雪印乳業食中毒事件、平成14年の雪印牛肉偽装事件により、宅配事業は壊滅的なダメージを負い、将来の不安から従業員が離職、労務倒産の危機を迎える。これを機に卸売業から完全撤退し、働き手不足解消の助っ人として、陸上自衛隊を同年に除隊予定であった大里太郎氏が入社した。
  • 平成17年8月、近隣の廃業店からお客様1,000軒と従業員を引き継ぐ。また平成29年8月にも同様に800軒と卸事業を引き継ぐ。
  • 訪問営業を主体として取り組む中、獲得コストの上昇と顧客維持費の増大という課題に直面。これを受け、効率化とコスト削減を目指し、平成30年1月に自社テレアポを開設した。その結果、順調に顧客数が増加し、現在に至っている。
店頭の様子
実質経営者の大里太郎氏

店舖概要と立地環境

(1)牛乳関連店舗・設備

  店数 冷蔵庫 冷凍庫 自販機
本店 1店 2.25坪 1.5坪
支店 1店 4坪 2坪
  • 枚方市の本店と廃業店から引き継いだ茨木店の2店舗で運営している。経理や受発注業務、営業等の機能は全て本店が担っており、茨木店は物流機能のみ担っている。
  • 本店店舗内では、別会社として自転車店も運営している。

(2)牛乳関連営業用車両台数

保冷車 冷蔵車 軽トラック ライトバン 二輪車等
その他
持込車
7台 1台 1台
  • 配達はすべて特注の保冷車を使用している。冷蔵車は茨木店で使用。

(3)牛乳関連従業者数

  経営者 家族従業員 専従従業員 パート
アルバイト
合計
男性 2人 7人 4人 13人
女性 1人 3人 13人 17人
合計 2人 1人 10人 17人 30人
  • 家族従業員である奥様は二次品企画や事務、テレアポ部隊の管理を、また専従従業員に配達・営業の管理全般を担うリーダーが1名いる。
  • テレアポ(パート)、箱置きスタッフ(パート)、クロージング営業(社員)と分業体制を敷いている。配達は、本店4名、支店3名の7名体制。

(4)経営状況

①令和5年製品別売上高(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 103.4 93.0
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 100.9 7.0
牛乳関連合計 103.2 100
宅配卸以外の売上計
合計 103.2 100.0
②令和5年業態別売上高(%)
業態 前年比 構成比
宅配 103.5 89.2
卸(小売) 101.3 10.8
自販機
集団
その他
合計 103.2 100.0

③令和5年粗利益(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 104.4 96.7
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 100.9 3.3
牛乳関連合計 104.3 100.0
粗利益率 53.5
  • データは令和5年6月から令和6年5月末までの、該店の決算期に基づく数値データである。
④配達の状況
配達
時間帯
コース数 集金方法(軒) 日均
本数
毎日 週3 週2 週1 訪問 振込
CVS
引落 キャッシュレス 合計
早朝     17 6     1887 1075 220 75 3257 3059本
午前                      
午後                      
夜間                      
その他                      
合計     17 6     1887 1075 220 75 3257

(5)立地環境

  1. 商圏内の人口は、約284万人、約116万世帯。本店がある枚方市、茨木店がある茨木市は、ともに大阪と京都の真ん中、大阪府北部に位置する。
  2. 本店の配達エリアは、本店のある枚方市・交野市など大阪府の北部、八幡市・長岡京市・向日市など京都府の南部、さらに滋賀県大津市の一部にまで広範囲にわたる。
  3. 茨木店の配達エリアは、茨木市・高槻市・箕面市・池田市など大阪府の北摂地域が中心である。

経営方針

①経営理念

『自然にやさしく 健康と地域社会に貢献する』

②社名の由来

  • 宅配からの響きによるタック。スラックスのタックのような、つまみ上げるほど小さなことを大事に。チックタックと、大きな時を刻めるように。『新しい宅配』いつまでも止まることなく、新しいことに挑戦して、新しくなり続ける。

活動内容

1.ITを活用した効率的な営業体制の構築

①ITを活用した自社テレアポシステムの構築

テレアポブース
  • 自社で工事を行い、本店に最大6名のスタッフが同時にテレアポできるブースを設置。また優れた同業他社を見学し、そのノウハウを参考に自社仕様にカスタマイズしたテレアポシステムを構築した。ITを活用し、一人当たり1日5時間で270~280軒に架電、12~15軒のアポイントを獲得する効率的な仕組みを実現している。これにより、月間で約1,500軒のアポイントを獲得することができている。
  • 営業実績は毎月Excelで詳細に管理している。アポイントのキャンセル、TELクロージング、訪問クロージングなど、工程別・個人別に数値を分析し、課題の発生箇所を把握する仕組みを整えている。また、個別の営業実績に基づき、適宜フォローやフィードバックを行い、業務の改善と効率の向上を図っている。
テレアポブース
営業日報集計表

②分業制による営業システム

  • 自社内でアポインター、箱置きスタッフ、クロージングスタッフを雇用し、分業体制を敷いている。それぞれ個々の業務に特化することにより、育成の効率化や働きやすい環境づくりに努めている。
  • テレアポから営業の流れは、次の7つのステップで効率的に行われている。
    ①PCを用いて架電。②進捗状況をGoogleスプレッドシートでリアルタイムに共有・管理。③アポイント成約顧客データをACCESSから抽出し、クロージングリストを作成。④データをナビシステム「プロ道くん」に送信し配布。⑤配布終了後、配布先データをGoogleマップにアップロードしピン立て。⑥ピンを目印にクロージングを実施。⑦不在時は箱を回収し、電話クロージングを実施。
    以上により、効率的かつスムーズな営業活動を実現している。

2.ITを活用した事務・配達・仕分の効率化

①事務業務の効率化

  • Excelマクロ・VBE・UWSCを独自で勉強し、事務発注にかかる工程の多くを自動化。かつて約5時間かかっていた受発注業務が約30分に短縮されるなど、大幅な業務の効率化を実現している。
  • 通話録音機能と「通話を録音しています」という音声アナウンスを導入することで、カスタマーハラスメント対策を実現している。この取り組みにより、スタッフが安心して業務に取り組める環境を整えている。他にも集計・帳票印刷・登録等単純作業を自動化しており、少人数で最大の効果を発揮できる体制が構築できている。

②仕分け音声読み上げ・集計自動処理

  • 仕分け時に、商品棚卸記載のExcelを自動音声で読み上げるシステム(在庫、入荷、繰越、各コース合計、ルート順全ての読み上げ機能)を構築。スタッフが紙を見ることなく、音声を聞きながら仕分けすることができ、時短につながっている。
  • 100ml瓶・180ml瓶・ヨーグルト・大型瓶の4カテゴリーで、お客様順に仕分をしている。他にも集計・帳票印刷・登録等単純作業を自動化しており、少人数で最大の効果を発揮できる体制が構築できている。
音声読み上げシステム
仕分け後の状態

③配達面のこだわり

  • 配達は、すべて独自開発した特別仕様の保冷車を使用している。空瓶と冷たい商品とが一緒にならないよう、3室キャリアの構造になっており、必要最小限の開閉で商品の出し入れができるよう工夫されている。
  • 全車にドライブレコーダー、バックカメラ、コーナーセンサーを設置し、事故のリスク軽減に努めている。また、googleマップによる配達ナビ、現在地の共有とlogの記録などにより効率的な配達システムを構築している。

④遠隔システムの活用

  • 本店と茨木店の店舗間を常にSkypeで接続し、状況確認やコミュニケーションをタイムリーに取れるようにしている。このシステムにより、スタッフの心理的な孤独の解消にも貢献している。
  • 冷蔵庫の温度をスマートフォンでチェックできる機能を取り入れており、異常時にはアラートが鳴る仕組みになっている。

3.配達品質を高める取り組み

①配達方法の工夫

  • 配達は、すべて特別仕様の3室キャリア構造の保冷車を使用しており、冷たい商品・蓄冷材はキャリアの中に、空瓶・使用済み蓄冷材は上や後ろのスペースに積載できるようになっている。この配達車の工夫により、品温上昇を防止している。
  • 4つのカテゴリーに仕分けして宅配順に積み込み、クールワンシートで保冷している。現地では最小の作業で商品をピックアップできる仕組みを作っている。

②清潔さへのこだわり

  • 配達の都度、受箱をふき取り、次亜塩素酸水で除菌している。更に、商品を入れた後も商品の上から次亜塩素酸水をふりかけることで清潔さを保っている。
  • 蓄冷剤は、自作の循環式高圧洗浄機(少量の塩素を使用)を使い、都度きれいに洗浄している。
特別仕様の保冷車
自作の循環式高圧洗浄機

③お客様とのコミュニケーション

  • お客様からのメモは、その場で3枚複写の専用用紙に返事を書いて共有している。3枚のうち、1枚をお客様控えとして受箱に、また残り2枚を配達スタッフ控え・事務提出用とすることで、内容の共有・確認を徹底している。社内の連絡ミス防止だけでなく、お客様との確認の徹底による信頼関係構築にもつながっている。
  • 配達時には、お届けカードを受箱に挟むことで、取り忘れ防止に努めている。

4.顧客満足度向上のための情報発信・サービス

①タック通信の毎月の発行

  • 衛生管理の取組や健康情報、伝達事項を記載したタック通信を毎月発行している。健康情報に関しては、商品お試し券付カレンダーと連動した情報を掲載することで、お試し券の利用を促すなど工夫している。

②プレゼント企画

  • 契約時にヒアリングした誕生日月に、バースデーカードとデザートをプレゼントしている。
  • 独自のポイント「みるくポイント」を発行し、ポイントに応じた賞品と交換できる仕組みを取り入れている。
  • 契約から12週間継続した新規客に対し、オリジナルデザートセットをプレゼントしている。

③休み・変更しやすいシステム

  • WEBによる休み・変更の手続きや支払い決済サイトを導入し、若い世代にも利用しやすい宅配サービスを提供している。
  • お客様からの変更や休み、問い合わせの電話内容を手紙にまとめ、事務部門から配達担当、そしてお客様へと情報を共有・確認する仕組みを整備している。これにより、社内のミス防止とお客様への安心感の向上を実現している。
  • 商品の本数が溜まっているお客様には、こちらから電話連絡を行い、本数削減の提案をするなど、フォロー体制を構築している。
タック通信

④チラシによる二次品の案内

  • チラシは月2回配布。一度に最大10部配布するため、丁合機を使用してチラシを準備している。また、受箱に入れると結露による汚損が発生するため、ラップ機にて1軒ずつビニール包装し、配布している。
  • チラシ配布時には受注後の納品目安を案内し、お客様にスケジュールを伝えている。また、受注時には注文内容や納品予定日をノーカーボン紙に記入し、配達担当と事務担当それぞれが控えを保存する仕組みを構築している。この取り組みにより、発注ミスを防止するとともに、お客様に対して安心感を提供している。
  • 配達時にはプラダン、保冷バッグを使用(後日回収)。また、“thank youカード”を同封している。

5.業界や地域への貢献

①他販売店との情報共有

  • ミルクネットワークや雪印メグミルク協会の主要ポストに携わり、全国の販売店と関係性を構築し、細やかな情報提供を行っている。
  • 勉強会では得意分野のITを活かし、リモートによる受入を行っている。また該店の主要メンバーにも勉強会の参加を促進し、育成を図っている。
  • 他店からの見学を積極的に受け入れ、ノウハウを共有することで業界全体の成長に寄与している。また、令和6年7月には雪印メグミルクと共同で近畿地区の若手販売店を集めた有志会を開催した。会では、これまでの困難を乗り越えたお店の歴史や、宅配の未来に向けたビジョンを発表し、意見交換や懇親を通じて参加者のモチベーション向上を図った。

②地域社会への貢献

  • 多くの保育園や幼稚園に牛乳・飲料を納品しており、徹底した衛生管理と細やかな対応を心がけることで、良好な関係を築いている。また、地元小学校の「お仕事しらべ」に協力し、小学生の見学を受け入れるなど、地域とのつながりを大切にしている。
  • 商工会議所や行政のセミナー、無料相談会に積極的に参加し、公的機関を有効活用している。さらに、京田辺市との防犯パトロールの提携や、茨木市自治会への飲料提供など、地域社会への貢献活動も展開している。

経営専門家の意見

該店はITを巧みに活用し、作業効率の向上とお客様へのサービス向上を実現している。他店の優れた取り組みを積極的に取り入れるだけでなく、自ら創意工夫し、独自のシステムを構築している点が秀逸である。

たとえば、作業性と品質向上を目指した独自開発の保冷車や自作の蓄冷剤自動洗浄機、ワンタッチで受発注可能なシステムや音声読み上げシステム、効率的な架電とデータ化を可能にするテレアポシステムなど、随所に秀逸な工夫が見られる。また、テレアポと訪問営業の分業化や成果の見える化が可能なシステムなど、効率よく成果を上げ続ける仕組みが確立されている。

さらに、自店の発展だけでなく、業界全体を変革しようという強い意志が伝わってくる。今後は業界をリードする変革者としての活躍を大いに期待する。

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