第35回 牛乳販売店優良事例発表会

(一社)全国牛乳流通改善協会

優秀賞

一般社団法人 全国牛乳流通改善協会会長賞施設へのイベント提案から
お客様との接点をつくる

有限会社田中商店 乙女販売店
代表者田中 俊光

ここがポイント

  1. ①施設、法人に向けた物販会開催提案と定期宅配顧客の開拓
  2. ②自販機設置先等を活用した効率的な宅配顧客開拓
  3. ③お客様から相談される関係づくり

発表店概要

販売店の歴史及び代表者(発表者)の経歴

(1)販売店の歴史

店頭の様子
  • 1981年、廃業準備をしていた野木駅前の「乙女販売店」を先代の田中勝磨氏が買い取り、有限会社田中勝磨商店を設立。以前から事業を始めていた菓子類の卸売業に加え、牛乳も取り扱う食品会社としてスタートした。なお、菓子類・牛乳ともに当時は卸売が中心であった。
  • 2002年、取引先スーパーの事業縮小により、卸売業から宅配事業へと方向転換をした。また、ダイドードリンコの自動販売機事業もスタートし、自販機と牛乳宅配の二本柱となった。
  • 2008年、現代表の田中俊光氏が入社。当時の宅配軒数はまだ200軒程度であったが、俊光氏が宅配事業に携わるようになった約10年前から積極的に宅配軒数の拡大に注力。外注のテレアポや郵便局でのイベント営業などを行い、着実に軒数を伸ばした。その結果、コロナ前には最大で600軒半ばまで宅配軒数は増加した。
  • コロナ禍に入り、毎月10回程度開催していた郵便局でのイベントが全て中止に。こうした影響もあり、宅配軒数が大きく減少。600軒を超えていた宅配先は500軒程度にまで落ち込んだ。
  • コロナが落ち着いた2023年、新たな取り組みとして老健施設での物販会などをスタート。また、12月には後継者の田中俊光氏が事業を引継ぎ、社名も以前の田中勝磨商店から田中商店へと変更した。

(2)代表者の経歴

代表の田中俊光氏
  • 学校を卒業後、警備保障会社に就職し、約2年半にわたって勤務。25歳のときに、先代から「体を壊したので手伝ってほしい」との連絡を受け、同社を退職して家業を手伝うこととなった。
  • 入社当初は自販機部門を担当。その後、約10年前から宅配事業にも携わるようになり、積極的に拡売を続けている。
  • 約5年前からは経営にも携わるようになった。また、2023年12月には先代の田中勝磨氏から事業を継承し、代表取締役に就任した。

店舖概要と立地環境

(1)牛乳関連店舗・設備

  店数 冷蔵庫 冷凍庫 自販機
本店 1店 1.5坪 1坪
  • 牛乳関連の自販機は1台もないが、別途自販機部門としてダイドードリンコの自販機を41台設置している。
冷蔵庫内
冷凍庫内

(2)牛乳関連営業用車両台数

保冷車 冷蔵車 軽トラック ライトバン 二輪車等
その他
持込車
1台 3台 2台
  • 本店のある小山市や商圏内の佐野市は、全国でも比較的暖かい地域であり、冬場でも気温15度程度の日も多い。したがって、年間通してクールマットの使用を徹底している。
ライトバン
軽トラックの荷台

(3)牛乳関連従業者数

  経営者 家族従業員 専従従業員 パート
アルバイト
合計
男性 1人 1人 6人 8人
女性 2人 3人 5人
合計 1人 3人 9人 13人
  • 9名のパートと先代の勝磨氏、俊光氏で配達を行っている。パートは30代から70代まで幅広い年代が勤務している。

(4)経営状況

①令和4年製品別売上高(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 104.4 71.0
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 100.0 1.6
牛乳関連合計 104.3 72.6
宅配卸以外の売上計 85.2 27.4
合計 98.3 100.0
②令和4年業態別売上高(%)
業態 前年比 構成比
宅配 104.3 67.2
卸(小売) 104.1 5.4
自販機
集団
その他 85.2 27.4
合計 98.3 100.0
  • 上記①の「宅配卸以外の売上計」は、ダイドードリンコの自販機事業の売上が計上されている。
  • 上記自販機は、かつてのピーク時は合計80台設置し、1台あたり平均5万円/月の売上を上げていた。しかし、法人事業所の減少等により徐々に設置台数は減少し、現状では合計41台、平均2.5万円/月にまで減少している。
③令和4年粗利益(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 104.4 98.6
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 100.0 1.4
牛乳関連合計 104.3 100.0
粗利益率 47.3
  • 記載されている数値は、令和5年3月末の決算資料に基づくデータであり、コロナ後に積極的に取り組んでいる開拓営業による売上・利益は、ここには十分に反映されていない。
④配達の状況
配達
時間帯
コース数 集金方法(軒) 日均
本数
毎日 週3 週2 週1 訪問 振込
CVS
引落 キャッシュレス 合計
早朝     10     100   100 100   300 507本
午前       7   100   100 50   250
午後                      
夜間                      
その他                      
合計     10 7   200   200 150   550
  • 以前は早朝配達が中心であったが、昨今は従業員への引継ぎや安全性等の面を考慮し、午前配を増やしている。
  • 集金については、効率面を考慮し、引き落としへの移行を勧めている。現状や全体の4割弱であるが、5割以上の移行を当面の目標としている。

(5)立地環境

  1. 栃木県南部に位置するする小山市は、人口約16万人の都市で、宇都宮市に次いで県内第2位の都市である。お店は小山市の南部に位置しており、JR宇都宮線の間々田駅と野木駅の中間地点に店を構えている。
  2. 商圏内は、大型販売店の台頭や量販店・CVSの増加により、商業環境は厳しくなっている。そのような状況の中で当店においても小山市内だけでなく、周辺地域の栃木市や古河市などへ開拓地域を拡大している。営業エリアとしては、小山市・野木町・下野市・結城市・古河市・八千代町・栃木市・壬生町・真岡市・筑西市・佐野市・宇都宮市と広く掲げている。ただ、宇都宮市は自販機のみ、真岡市にも宅配先がないなど、現状ではエリアをより絞って対応している。

経営方針

  • お店のある小山市乙女の「OTOME」の文字をベースに以下の社訓をつくり、社内で共有している。この社訓は、お店のホームページをつくる際、ホームページ制作会社からアドバイスを受け、現代表の俊光氏が作成した。
  • この社訓は常に目に留まるように壁に掲示している。この社訓を踏まえ、地域に密着した取り組みを行っている。
壁に掲示された社訓

活動内容

1.デイサービス施設での物販会

①デイサービス施設への提案・実施

  • 市場の価格高騰により通常の拡張では顧客増加が難しくなっていることから、「定期契約ではなくその場で販売」というアイデアが浮かび、デイサービスへの物販会提案活動を実施した。
  • 2023年2月から4月の間にデイサービス施設を100施設以上訪問し、物販会を提案。その結果、約20施設でデイサービスでの物販会が始まった。老健施設の増加に伴って施設側も他との差別化が重要になっており、施設側としてもこのような提案に賛同される場合が多い。
  • 物販会に持ち込んだ商品は1回の物販会で基本的に完売し、1回あたり約150個の商品が販売できている。
物販会の様子
物販会には長男も手伝いに
  • ちなみに販売価格は140円/個。「10本買うと2本サービス」という売り方により、一人当たり12本・1,400円分まとめて購入される人が多い。

②利用者様の“楽しみ”の提供に

  • 施設の利用者様からは、「商品を選びながら買い物することが楽しい」という声が多くある。また、施設の職員さんからは「利用者様が買い物を楽しむことが、リハビリや認知機能の維持につながる」という声が上がっている。施設のご利用者様、施設の職員さん、該店の3方がメリットを感じることのできる取り組みとなっている。
  • 2週間に1回、1か月に1回など、施設の定期イベントとして継続実施してもらえるケースが多い。利用者様は、物販会の日にはお小遣いを持ってやって来られるなど、楽しみなイベントの一つと位置付けてもらえている。

③物販会から定期宅配への移行の推進

  • 物販会で購入した商品を「毎日飲み続けたい」と思っている利用者様に対しては定期宅配を推進している。また、骨ウェーブの活用や商品説明を通し、健康維持のためには継続して飲むことが必要である点を伝え、定期宅配での健康維持を提案している。
  • 物販会の狙いの一つとして、イベントの提案・実施を契機に、施設利用者やスタッフに対して宅配商品の定期契約を推奨する点にある。年齢や健康意識という観点から利用者様をターゲットに設定したが、一方で施設の職員さんにも提案を実施。現在は拡張スタッフを雇用している状況ではないため、物販会は一般的な訪問拡張を補うための取組みの一つと位置付けている。

2.施設・法人に向けた提案・開拓活動

①デイサービス施設へのショーケース設置

デイサービス施設のショーケース
  • デイサービスの利用者様がデイサービス帰りに買い物ができるよう、ショーケースを設置した。このショーケースは、定期的に訪問して利用した分のみ請求する、いわゆる「置き薬方式」で運営しており、施設にとっても負担にならない方法で運営している。
  • 物販会から派生した「利用者様が“買い物を楽しむ”」取り組みの一つであり、利用者様からもかなり好評な取り組みとなっている。

②ダイドー自販機設置先への提案

  • ダイドーの自販機を設置している企業の社員に向けて提案を実施。宅配商品に興味のある人へ1週間分のサンプルを届け、牛乳宅配を体験してもらうという、「1週間無料モニター」企画を実施。約10名の成約につながった。
  • 1週間無料モニター企画を提案した企業から、企業主催のブース出展イベントで「来場者にガセリドリンクを配布したい」という話があり、商品を販売。企業への提案を行うことで、一般家庭への拡張では得られないような繋がりを持つことができている。

3.お客様との関係づくり

①お客様から相談される存在に

  • 家族4人とパート配達員という“家族経営”であり、適宜家族で情報共有したり、話し合ったりしながら取り組んでいる。集金や電話応対など、お客様対応についても基本的に家族全員で対応していることから、お客様との良好な関係が構築できている。落本率は1%と低い状態を維持している。
  • かつてお客様から相談があり、特殊詐欺(振り込め詐欺)を未然に防いだことがある。お客様からの注文の電話がきっかけであったが、その際の会話の中でこうした話があり、アドバイスしたことによって詐欺を未然に食い止めた。
  • かつてお客様から「畑の野菜が盗まれた」という話があり、外構を付けるお手伝いをすることで、それを防止したケースがあった。お客様のお困りごとに真摯に向き合う姿勢が表れるエピソードである。

②お客様からの要望への対応

  • 訪問集金時のお客様との会話を大切にしており、お客様からの要望があればできる範囲で対応している。お水の配送サービスを行ったり、ときには買い物代行なども行っている。

経営専門家の意見

一般家庭への拡張が年々難しくなっている中、該店は老健施設や企業等を通じて拡張する方針に切り替え成果を上げている。特に老健施設での物販会は他との差別化を図りたい施設においてもメリットがあり、まさにWin-Winの提案と言えるだろう。また「買い物する楽しみを与える」という点が、利用者様にとっても、それをサポートする施設の職員さんにとってもメリットがある。こうした“三方よし”の提案だからこそ、多くの施設から受け入れられ、価値ある取り組みとなっている。

なお、この物販会のゴールは、施設のイベントとして継続的に実施してもらうことではなく、定期の宅配顧客を増やすことと位置づけている。つまり、あくまでも宅配軒数を増やすためのきっかけづくりという考えである。こうした観点で考えると、老健施設に対する物販会だけに留まらず、様々な施設や団体に向けた新しいユニークな取り組みを検討することもできるだろう。

このたび満を持して俊光氏が事業を継承し、社名も変更した。今後ますます新たな取り組みが加速していくことを大いに期待する。

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