第35回 牛乳販売店優良事例発表会

(一社)全国牛乳流通改善協会

最優秀賞

農林水産大臣賞積極的な開拓営業で
新たな販売店モデルにチャレンジ

株式会社小針乳業
代表者小林 正明

ここがポイント

  1. ①イベント営業、ネット通販等積極的な開拓営業の展開
  2. ②効率化を追求した契約内容の徹底「週1回、7本お届け」
  3. ③社員のモチベーション向上「ZOOMの常時接続」「研修、休暇制度」

発表店概要

販売店の歴史及び代表者(発表者)の経歴

(1)販売店の歴史

  • 当社の前身となる小針酪農は、約100年以上前に創業。当初は、酪農家として搾乳した牛乳を殺菌し、近隣住民に向けて販売していた。
  • 約50年前、現会長が事業を継承する際、「酪農ではなく、メーカーの商品を取り扱うほうがお客様への安心安全の点から見て良いのではないか」と考え、森永乳業正規代理店としてスタートした。
  • 1999年、株式会社小針乳業を設立。
  • 2001年、支店として伊勢崎店を開設。その後2007年に熊谷店、2017年に新座店、2019年に志木店をそれぞれ開設。現在は、本店1店と支店4店の計5店にて展開している。
店頭の様子
店舗の外観

(2)代表者の経歴

代表の小林正明氏
  • 高校卒業後、旅行代理店に就職。その後宅配会社に転職し、セールスドライバーとして8年間勤務。
  • 将来的に牛乳宅配店を引き継ぐことが決まり、宅配システムを学ぶためにヤマト運輸に転職、3年間勤務。
    また、その後営業を勉強するために 光通信に転職し、1年間勤務。
  • その後、約25年前に当社に入社。当社では約5年前から実質経営者として経営に携わるようになり、2023年10月に代表取締役に就任した。

店舖概要と立地環境

(1)牛乳関連店舗・設備

  店数 冷蔵庫 冷凍庫 自販機
本店 1店 50坪 15坪 1台
支店 4店 15坪 5坪
内訳 熊谷店 6坪 1.5坪
伊勢崎店 6坪 2坪
新座店 3坪 1.5坪
志木店
  • 埼玉県本庄市の本店のほか、埼玉県では熊谷市、新座市、志木市において3つの支店を、また群馬県では伊勢崎市にて支店を展開している。
冷蔵庫の外観
作業場内の様子

(2)牛乳関連営業用車両台数

保冷車 冷蔵車 軽トラック ライトバン 二輪車等
その他
持込車
21台 5台 52台
  • 配達業務の大半は、配達員に委託している。50名以上の配達員が、それぞれ持込車を用いて配達している。
  • 上記の二輪車等その他は、「超小型電気自動車『コムス』(トヨタ車体)」である。数年前から一部で「コムス」を用いて配達しており、燃費の向上や駐車スペース問題の解消等につなげている。なお、コムスの活用状況については、トヨタ車体から法人の活用例として取材を受け、その様子がYouTubeチャンネル「comschannel」で公開されている。
超小型電気自動車「コムス」の活用
(出所:YouTubeチャンネル「comschannel」より)

(3)牛乳関連従業者数

  経営者 家族従業員 専従従業員 パート
アルバイト
合計
男性 1人 7人 21人 29人
女性 1人 7人 11人 19人
合計 1人 1人 14人 32人 48人
  • 専従従業員の大半は、店長・事務職である。また、イベントなどのセールスに専従しているスタッフが、15名いる。

(4)経営状況

①令和4年製品別売上高(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 111.5 76.4
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 122.4 2.1
牛乳関連合計 111.8 78.5
宅配卸以外の売上計 82.8 21.5
合計 103.9 100.0
②令和4年業態別売上高(%)
業態 前年比 構成比
宅配 111.8 77.6
卸(小売) 100.0
自販機 111.3 0.8
集団
その他 82.8 21.5
合計 103.9 100.0

③令和4年粗利益(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 110.9 95.4
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 109.7 4.6
牛乳関連合計 110.9 100.0
粗利益率 47.7
  • 上記①の「宅配卸以外の売上計」、上記②の「その他」には、楽天、ヤフー、アマゾンなど、主にネット通販の売上高が含まれている。ネット通販は、以前はかなり力を入れてきたが、 手数料により利益率が20%以下とかなり低くなってしまうことから、今は以前ほど積極的に取り組んでいない。
④配達の状況
配達
時間帯
コース数 集金方法(軒) 日均
本数
毎日 週3 週2 週1 訪問 振込
CVS
引落 キャッシュレス 合計
早朝       48   13 3366 3151   1299 7829 7094本
午前       16              
午後                      
夜間                      
その他       1              
合計       65   13 3366 3151   1299 7829
  • 上記コースの「その他」は宅配便を使って配送している先である。ショッピングモールやスーパーでイベントを開催すると、中には既存コースに当てはまらない顧客と契約するケースもある。こうした顧客に関しては、すべて宅配便にて対応している。なお、こうした宅配便の顧客が現在500軒以上あり、一つの「配達コース」と位置づけている。
  • 集金は、クレジットカード払いや銀行引き落とし、コンビニ払いを基本としている。訪問集金でしか対応できない先については、手数料を別途請求するなど、できるだけ有償サービスとして対応するようにしている。

(5)立地環境

  1. 埼玉県内においては、本庄市のある本店・熊谷店といった県北部、新座店・志木店といった県南部に拠点を置き、広いエリアをカバーしている。具体的には、埼玉県北部(深谷市、熊谷市、本庄市、児玉郡、大里郡)、さいたま市、埼玉県南部(新座市、志木市、朝霧市)を商圏としている。
  2. 群馬県においては、伊勢崎市に支店を展開しており、前橋市、高崎市、伊勢崎市をカバーしている。また、埼玉県と隣接する西東京市、東久留米市、清瀬市や、東京都北部の練馬区、板橋区などにもエリアを広げている。
  3. 上記以外のエリアにも宅配便にて対応している。同じエリアに一定の軒数がまとまれば、新たに支店を出店する方向であり、現在準備している地域もある。

経営方針

お客様のご要望をできる限り優先し、「健康」「便利」をテーマとして満足度の向上を目的とします。宅配サービスの継続的な改善をし、市場の変化に対応したワンランク上の街の牛乳屋さんを目指します。

  • 他の宅配ビジネスと比べ、牛乳販売店は全般的に過剰サービスになり過ぎていると感じている。顧客サービスとして何でも無償で提供するのではなく、無償と有償の線引きをきっちり決め、有償サービスとして提供することにより、サービスに対する責任感や更なるサービス品質の向上を図っていきたい。

活動内容

1.積極的な開拓営業の推進

①ショッピングモール等でのイベントによる開拓営業

  • ショッピングモール、スーパー、コンビニエンスストア、郵便局などで骨密度測定会などの健康イベントを毎月約60回開催。営業研修や営業マニュアルによってしっかり教育されたセールススタッフが、お客様の健康状態やニーズに合わせた商品を提案し、その場で即決してもらう開拓営業を行っている。
  • 郵便局などでは1日平均3~4軒、ショッピングモールでは1日40軒の成約に至るケースもある。成果が上がる独自の開拓営業手法は、「小針式」として他の販売店からも注目されており、他店から見学に訪れるケースもある。
イベントの様子①
イベントの様子②

②ネット通販事業の展開

  • 先代の社長の方針により、現代表・小林氏によりネット通販事業に参入。楽天、ヤフー、アマゾンなどに手広く出店し、売上を飛躍的に向上させた。特に楽天では、3か月間で売上を倍増させるなど大きく成果を上げ、「NATIONS BASIC」のリーダー店舗の役割も務めた。なお、「NATIONS BASIC」とは、自店舗を成功に導いてきた店舗がアドバイザー(リーダー店舗)となり、参加店舗にアドバイスやノウハウを伝える講座である。
  • ネット通販では、送料の請求や、まとめ買い客の存在は当たり前である。一方、通常の宅配業務では送料無料、週2回配達などが当たり前であり、ネット通販に参入したことにより、このギャップの大きさに気づくきっかけとなった。まとめて20本以上購入する顧客を見て、宅配事業でも週1回配達で対応できると考えるようになった。現在は週2回以上の配達には対応しない方針でやっている。
NATIONS BASIC目標達成の盾やメダル
NATIONS BASICリーダー店舗の盾

2.効率化を追求した取り組み

①「週1回・7本以上」の契約の徹底

  • 契約時に「週1回配送」を伝え、それ以上の配達を求める顧客ニーズには対応しない方針を徹底している。また、配達効率が良くないマンションのお客様や宅配便での対応客に関しては、「2週に1回の配送」として契約しているケースもある。なお、1~2週分をまとめて配達することになるため、賞味期限は常に厳しく徹底管理している。
  • 上記同様、契約時に「1回7本以上からの配達」も徹底している。健康イベントの際、「毎日飲むからこそ効果がある」という点を相手にしっかり伝え、納得してもらったうえで契約している。

②配達ナビの活用

  • 宅配ナビシステムを導入しており、そのシステムが入ったタブレットを配達時に従業員に渡している。これにより、配達員の引き継ぎや急な休みによる代配の際もスムーズに対応でき、配達業務の効率化につながっている。
  • また、配達ミスの防止にもつながっており、配達コストの大幅削減はもちろん、お客様に対するミスのない配達も実現できている。

③宅配便による対応

  • ショッピングセンターなどでのイベントでは、コース以外の遠方からのお客様が来店・契約するケースもある。こうした場合であっても断ることなく、すべて宅配便にて対応している。現在、宅配便にて対応しているお客様は500軒を超える。
  • 同じ地域の中で一定の軒数がまとまれば、新たに支店を出店する戦略である。現在、既に400軒以上が集まり、具体的に支店の出店を準備している地域がある。こうした戦略により、出店時のリスクを抑えながら拡大を進めていく方針である。

④既存のお客様とのコミュニケーション

LINEページ
  • 日常の簡単な休みや質問については、LINEを活用している。お店のLINEページでは、イベント案内やお休み受付のページにアクセスしやすくなっており、対応しやすくなっている。
  • お客様には定期的に骨密度測定のイベントに来ていただくよう案内をしている。
  • 二次品に関しては、健康の展示会などに出向き、独自で購入しているケースもある。

3.社員のモチベーション向上

①5つの店舗をつなぐ取り組み

  • 勤務時間中、5つの店舗を常にZOOMでつなげ、モニターでお互いの様子を見たり、声を聞いたりしながら仕事できる環境をつくっている。これにより、店舗において一人で作業している際も、他店の従業員と雑談したり、何か問題等があればすぐに相談できる状態になっている。それによって孤独感の解消、モチベーション向上等の効果につながっている。
  • 従業員同士、お互いに業務上のやり取りが把握できるよう、「LINEワークス」を使って管理している。また、店長や管理者の予定を「LINEカレンダー」にて共有することにより、迅速かつ正確に業務の遂行ができるよう仕組化している。
他店の様子を写したモニター
オフィスの様子

②営業研修による従業員のレベルアップ

  • 月1回営業研修を行い、営業のレベルアップを図っている。特に、獲得軒数の少ない営業者の軒数増加を図るため、新人から中堅の営業者を集めて実施している。
  • 研修は、「知る⇒理解する⇒行う⇒無意識にできる⇒教える」とレベルアップしていける内容にしている。また、ロールプレイングにて営業スタイルを身に着け、「相手に刺さるトーク」を考え使えるような研修を行っている。

③有休取得

  • 店長や管理職はもちろん、一般社員から週1日勤務のパートタイム社員まで、有給休暇を取れる体制をつくり、働きやすい環境を整えている。
  • この取り組みによって離職率が減少、また仕事の効率も上がり、会社として大いにプラスの効果になっている。なお、全社の有給取得率は90%以上である。

経営専門家の意見

該店は、ショッピングモールでの大規模な健康イベントや楽天でのネット通販等、積極的な開拓営業によって業績を大きく拡大してきた。特に、健康イベントで“毎日飲む必要性”をしっかり伝え、週7本以上を条件に契約している点は秀逸である。真の顧客第一とは「顧客の言うことは何でも聞く」ということではなく、顧客にとって何がベストかを考え、提案することである。こうした顧客と向き合う姿勢は、他の販売店においても参考にすべき点と言える。

一方、ネット通販へのチャレンジは、既存の牛乳販売店の枠を超えた発想につながり、直接的な売上貢献以上の価値を生み出している。たとえば、週1回配達の徹底、また場合によっては2週に1回の配達を勧めるなど、既存の販売店には無かった発想により効率化を図っている。また、訪問集金の場合は手数料を徴収するなど、一定のサービスの域を超える要望に対しては有償で対応する方針を徹底している。これも既存の牛乳販売店の“当たり前”を覆すやり方・考え方であると言えるだろう。

代表の小林氏からは、「牛乳販売店のあり方を変えていきたい!」という言葉があった。牛乳販売店が持つ良い部分を残しながらも、新たな時代に合わせて変えていくべき部分、チャレンジしていくべき部分は確かにある。既存の販売店の枠を超えた該店の取り組みが、今後新たな販売店のモデルになる可能性を大いに感じた。該店の今後のチャレンジに期待したい。

トップページへ戻る

ページトップへ