牛乳販売店優良事例発表会

優秀賞

一般社団法人 全国牛乳流通改善協会会長賞積極的コミュニケーションで
地域社会に貢献する販売店


熊谷商店
代表者熊谷 國男
発表者熊谷 英男(写真)

発表店概要

販売店の歴史及び代表者(発表者)の経歴


代表者の熊谷國男氏は、森永乳業の子会社である宮酪乳業(株)に勤務していたが、サラリーマン生活に飽き足らず独立自営を決意し、牛乳とアイスクリームを扱う販売店として熊谷商店を開業した。当初は、アイスクリームの販売を主としていたが、昭和60年代のスーパーマーケットなどの小売量販店の台頭によって、客の流れが量販店へと移りアイスクリームの売上が年々減少し始めた。その傾向はその後も変わらないだろうとの読みから、業務の主軸を牛乳の宅配に移していった。

その後、発表者英男氏の経営参加に伴い、アイスクリームを英男氏、牛乳を店主が販売するという業務の分担を行った後、主力の牛乳販売を徐々に英男氏に移していくという方針で、後継者への育成をはかってきた。

発表者英男氏は、高校卒業後、「他人の飯を食う」という事業承継を意識したサラリーマン生活を実践、体験している。他社で多くの人に揉まれながら実社会の経験を積むという目的から選ばれたのが、商事・電機・デザインの会社であり、各社とも2年間の勤務というところに英男氏の深い計画性が窺われる。

平成5年に最低限と思える修行を終えて、該店に入社したときから暫くは、店主の思い入れの強いアイスクリームの販売に専念していたが、販売業務に慣れた時点で、本来の目的である事業承継のため宅配業務にも携わっていくことになった。現在では、宅配業務の約40%程度を担当しているが、早朝に牛乳配達、昼間にアイスクリーム販売と精一杯の業務に勤しんでいる。店主の年齢を考えれば近い将来、経営全般の指揮・統制が必要となるが、その時に「他人の飯」の経験が生きてくることになる。

一般的には、如何に効率良く事業を承継していくかが世の中で問われているが、該店は長期的な計画に基づく引継ぎで、店主のこの問題に対する深謀遠慮がよく分かるような気がする。

店舖概要と立地環境

店舗外観
事務所の風景
事務所兼応接間

(1)牛乳関連店舗・設備

  店数 冷蔵庫 冷凍庫 自販機 ショーケース
本店 1店 1.5坪 3台
冷蔵庫
冷蔵庫の内部
冷蔵庫と事務所

(2)牛乳関連営業用車両台数

保冷車 冷蔵車 軽トラック ライトバン その他 持込車
1台 1台 1台 1台
  • 保冷車、冷蔵車で温度管理を徹底している。

(3)牛乳関連従業者数

  経営者 家族従業員 専従従業員 パート
アルバイト
合計
男性 1人 1人 1人 3人
女性 1人 1人 2人
合計 1人 2人 2人 5人
  • パート、アルバイトは身内から採用している。

(4)経営状況

①平成30年製品別売上高(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 101.6 66.0
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 100.0 5.3
牛乳関連合計 101.5 71.3
宅配卸以外の売上計 103.8 28.7
合計 102.2 100.0
②平成30年業態別売上高(%)
業態 前年比 構成比
宅配 97.6 42.6
卸(小売) 111.1 2.1
自販機 103.2 6.8
集団 105.0 22.3
その他 107.0 26.2
合計 102.2 100.0
  • アイスクリームの売り上げが28.7%ある。
  • 業態別売上高では、アイスクリーム26.2%の他に、集団が22.3%と地域密着型の該店の特徴が表れている。
③平成30年粗利益(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 100.3 96.7
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 100.0 3.3
牛乳関連合計 100.3 100.0
粗利益率 44.9  
④配達の状況
配達
時間帯
コース数 集金方法(軒) 日均
本数
毎日 週3 週2 週1 訪問 振込 引落 合計
早朝   2       500     50   550 420本
午前                      
午後                      
夜間                      
その他                      
合計   2       500     50   550

(5)立地環境

  1. 商圏内人口:310,000人、世帯数:200,000世帯
  2. 宮城県の県庁所在地である仙台市の北部エリアを拠点としており、同マーク、他マークの競合店他量販店・コンビニエンスストアなど競合は激しい。

経営方針

基本方針:「地域密着でお客様を大切にする」

  1. 地域行事への参加で地域社会に貢献すること(現在、町内会の役員、スポーツ推進委員を務めている)
  2. お客様とのコミュニケーションを大切にする
  3. お客様に迷惑をかけないように“自身の健康維持に努める”

活動内容

1.積極的コミュニケーションでお客様を大切にしている

①約9割を占める訪問集金を有効活用

  • 訪問集金する時がコミュニケーションの好機なので、新製品状況や健康食品などのPRの他に一般的な話題も織り交ぜて雑談し、お客様の近況を把握するようにしている。
  • 特に高齢者世帯では健康状態のヒヤリングを欠かさないようにしている。

②店主自らの営業活動で休眠顧客を掘り起こし

  • 平均月1~2軒の受注につながっている。
    新規顧客獲得への営業活動は専門の営業マンに委託しているので、店主としての営業活動は、休眠している顧客の宅配再開に力を注いでいる。

③郵便局で試飲会開催

  • 郵便局で開催している試飲会は概して好評である。毎月3回程度実施しており平均2軒程度の受注に結びついている。この試飲会は、貴重な拡販イベントであり今後も継続して実施する予定である。

④顧客への感謝の念を込めてお歳暮を贈っている

  • “常温保存可能なお豆腐”の評判がいいので、以後の継続購入も期待してお歳暮として贈っている。併せて、全改協のミルクカレンダーも全顧客に配布しており非常に喜ばれている。

2.地域行事への参加で地域社会に貢献している

①店主は町内会の役員を務めている

  • 町内会役員で地域に貢献すると共に、該店の知名度向上にもつながっている。

②発表者英男氏は仙台市スポーツ推進委員を務めている

  • 仙台市のスポーツ推進委員としてスポーツの振興に協力しており、小中学校の運動会や地域のスポーツ行事などの支援を行っている。

③地域行事に協賛出店

  • 地域のお祭りやスポーツイベントなどの行事が開催されるときには、率先して協賛出店しており、アイスクリームや乳製品、ヨーグルト、健康食品などを販売している。このような地域行事への出店は地域住民に喜ばれており、特にアイスクリームの販売が好評で、時には完売するほどの人気である。

④団体への納入が22.3%を占めるほど地域に密着している。納入先は、幼稚園、老健施設、ホテル、学校、スポーツ団体など15施設に及ぶ。

3.新商品の積極販売

①独自のチラシでニンニク販売好調

ニンニクと豆腐のチラシ
ニンニクと豆腐のチラシの裏面

  • 新商品販売時には、メーカーのチラシに加えて該店独自の説明文を貼付している。チラシ作成に併せて各顧客宅を訪問、詳しく説明の上、納得して購入して貰うようにしている。ニンニクについてはケース単位での販売とし、総量で50ケース以上の販売につながり、非常に好評であった。

「日本初 常温保存可能なお豆腐」が好評

  • 保存料不使用で常温保存可能なお豆腐の評判が上々で、静かなブームとなり売上を伸ばしている。

4.高齢世帯への気配り

①訪問集金の活用

  • 配達は早朝なので顧客とのコミュニケーションは取りにくいため、訪問集金時に近況や健康状態などのヒヤリングをしている。

②取り忘れ対策

  • 取り忘れが発生した場合、受箱にメモを入れて注意喚起している。取り忘れが2回続いたら電話連絡し、お客様の要望があれば商品を取り替えるようにしている。

5.商品の品質管理

①保冷車、冷蔵車で配達実施

  • 配達には保冷車、冷蔵車を使用している。蓄冷剤は寒冷地のため3月~11月に使用しており、冬場の極寒時には凍結の恐れがあるため、保温シートで包んで配達している。

②夏場の冷蔵車のドア開閉に注意喚起

  • 夏場は蓄冷剤使用と同時に、冷蔵車のドアの開閉時に外気の侵入を防ぐため、細心の注意を払うように指導している。

③受け箱の管理

  • 配達時に受け箱を拭くように指導している。通常の場合、受け箱がお客様との唯一の接点であることを認識させている。受け箱は1年毎に取り替えており、使えそうなものは再使用している。

6.経営管理への取組み

①パート、アルバイトの採用は身内から

  • パート従業員は2名と少人数であるため、現状では身内からの採用としている。身内ということで気心も知れており安心して採用できる上、パート従業員もすぐに辞めていくということもなく息の長い勤務となっている。

②経理業務について

  • 現状経理事務は母親が実施しているが、いずれ近い将来には事務員の採用が必要と思われるので、その前に業務内容の見直しが必要と考えている。

7.スタッフの教育

スタッフはパートの2名だけなので口頭での伝達としている。新製品情報や配達コース内の交通事情など大切と思われるものは必ず直接伝達している。

8.将来展望

店主と母親が頑張って経営している該店も、近い将来に英男氏への事業承継が必要である。英男氏への後継者育成に対する店主の考え方は良く伝わってくることから、期待通りの承継が行われると思われる。

後継者・英男氏としては、高齢のご両親の仕事を楽にさせたいという思いと、折角張り切って頑張っている現状をやめさせたくない、という複雑な葛藤はあるものの従業員や事務員の採用など、時期をみて経営近代化への決断も必要となっている。

経営専門家の意見

該店は、アイスクリームを主、牛乳を従とする小売店が出発点である。専門店の性格上、商圏内のお客様に商品を繰り返し買って貰うことが重要であり、そのために知名度向上と地域への融合を心掛けた経営を進めてきた。牛乳を主とする現状でも大切にすべき方針である。

地域貢献では、店主の熊谷國男氏が町内会の役員を長年務め、後継者である英男氏は仙台市のスポーツ推進委員としてしっかりと地域社会に貢献している。また、地域のお祭りやスポーツイベントなどの行事には、率先して協賛出店し、売上拡大にも結びつけている。

お客様とのコミュニケーションでは、91%を占める訪問集金が該店の強みである。この機会を利用しての顧客の日常や健康状態の把握に努め、新商品や健康食品のPRなどにもこの機会を有効に活用している。

営業面では、郵便局等での試飲会を平均月3回程度実施し、毎回約2軒の受注獲得に成功している。新規客が全て固定客になる訳ではないが、落本を補い顧客増につながっている。また、店主の休眠顧客の掘り起こしも平均月1~2軒の受注実績がありプラスになっている。

後継者育成においては、英男氏へのバトンタッチは、長期的に計画された店主の思いが伝わってくる。修行として異業種3社にそれぞれ2年という期間の勤務で完了し、該店に入社後は固定卸先へのアイスクリームを主に担当させ、徐々に開拓業務が必要な牛乳の取扱いを増やしていくという手法に表れている。

経営管理ではパートを身近な関係者から採用することで長期間の勤務に結びついており、少人数での経営では有効的と思われる。

将来性に関しては、後継者の英男氏の新たな経営構想により、従業員の採用、そして今後の拡販体制をどのように進めるか、該店の将来が楽しみである。


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