牛乳販売店優良事例発表会

優秀賞

農林水産省生産局長賞従業員主導で新聞配達から
宅配牛乳へチャレンジ!


株式会社アウンズ・ヤナギハラ
代表者柳原 一貴

発表店概要

販売店の歴史及び代表者(発表者)の経歴

柳原 一貴氏
1960年3月
柳原新聞店創業。主に毎日新聞、静岡新聞、産経新聞、スポーツニッポンを取り扱う。創業時の従業員数は8名。
1993年6月
地域の情報を発信するミニコミ紙を創刊。また、1997年には毎日文化サロンスタート。2010年、第1回商売繁盛セミナー開催。共に現在も継続している。
2011年11月
ホスピタリティビジネス企業の認定を受ける(国際ホスピタリティ研究センター)。
2012年
地元の手作り惣菜店「知久屋」とパートナーを組み、夕食宅配事業「知久屋宅配ファーブル倶楽部」を開始。
2014年5月
「森永浜松ミルク」事業をスタート。
2015年6月
創業55周年を機に株式会社アウンズ・ヤナギハラに社名変更。
2015年
FC事業のデイサービス「きたえるーむ浜松中央」の運営を開始。また、2016年には「すまいるサポート事業」を開始。
2018年
鍼灸整骨院の事業を継承。また、2018年伊東市の新聞販売店、2019年6月より沼津市の新聞販売店の事業継承。
店舗外観
本社外観

店舖概要と立地環境

(1)牛乳関連店舗・設備

  店数 冷蔵庫 冷凍庫 自販機 ショーケース
本店 1店 8坪 2坪
支店 9店 9台
サブ店 1店 1台
  • 9つの支店は、すべて従来の新聞配達の販売所である。本店も含めた10店舗で浜松市全域をカバーしている。
  • 各支店では、業務用の冷蔵庫は設置せず、銭湯に設置されているタイプの自動販売機を改造し、使用している。

(2)牛乳関連営業用車両台数

保冷車 冷蔵車 軽トラック ライトバン その他 持込車
1台 4台 70台 30台
  • 宅配に関しては、30名のパートは全て持込車を、また約70名の専従従業員は基本的に新聞配達用のバイクを使用している。
  • 新聞配達用のバイクには、後部に大きめのクーラーボックスを取り付けられるよう改造している。牛乳や夕食宅配においては、このクーラーボックスを用いて配達している。なお冷蔵車に関しては、施設向けの配達及び本支店間の配送用として使用している。
バイクに設置するクーラーボックス
本店の冷蔵庫

(3)牛乳関連従業者数

経営者 家族従業員 専従従業員 パート
アルバイト
合計
男性 1人 70人 7人 78人
女性 11人 23人 34人
合計 1人 81人 30人 112人
  • 専従従業員は、事務員8名を除く全員が、配達と営業を兼務している。配達員は、早朝には新聞配達を、また午後からは牛乳および夕食配達をし、その後夕刊を配っている。
  • 一方、30名のパートの配達員は、新聞配達には一切携わっておらず、牛乳および夕食配達のみ行っている。

(4)経営状況

①平成30年製品別売上高(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 118.5 95.5
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 105.8 4.5
牛乳関連合計 117.9 100.0
宅配卸以外の売上計
合計 117.9 100.0
②平成30年業態別売上高(%)
業態 前年比 構成比
宅配 117.9 100.0
卸(小売)
自販機
集団
その他
合計 117.9 100.0
③平成30年粗利益(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 122.5 96.1
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 105.7 3.9
牛乳関連合計 121.8 100.0
粗利益率 52.0
  • 夕食宅配は、全体で月間約2,800食を販売している。ただしこの数値は、ここで掲載している売上・粗利益には含んでいない。
④配達の状況
配達
時間帯
コース数 集金方法(軒) 日均
本数
毎日 週3 週2 週1 訪問 振込 引落 合計
早朝                       900本
午前                      
午後         100 538   1462     2000
夜間                      
その他                      
合計         100 538   1462     2000
  • 宅配牛乳に関しては、約70名の専従従業員及び30名のパートが配達している。新聞配達のエリアがベースとなっているため、それぞれが担当するエリアは限定されており、その限られたエリアをきめ細かく配達している。
  • 顧客は週1回の先から複数回の先まで混在しているため、週1や週2といったコース区分はできない。

(5)立地環境

  1. 宅配牛乳に関しては、約70名の専従従業員及び30名のパートが配達している。新聞配達のエリアがベースとなっているため、それぞれが担当するエリアは限定されており、その限られたエリアをきめ細かく配達している。
  2. 顧客は週1回の先から複数回の先まで混在しているため、週1や週2といったコース区分はできない。

経営方針

当社では、2000年からCSを中心とした経営に転換し、2001年には以下のような経営理念を制定した。その後、理念の浸透・風土づくりに注力した経営を行い、2011年にはホスピタリティビジネス認定企業(国際ホスピタリティ研究センター)を受けるなど、対外的にも評価されている。

①経営理念

MISSION ミッション
私たちは明るく元気な人々が集う楽しいファミリーのような会社づくりと、情報やサービスの提供による地域の皆様とハートフルなネットワークの創造を目指します。
VISION ビジョン
毎日、新聞を各家庭にお届けする地域密着型企業の特質を生かし、各種の情報・サービス・商品を提供できる地域社会への貢献度NO.1を目指します。
CHARTER 社員憲章
  1. 私たちはお客さまと常に笑顔で接します。
  2. 私たちはお客さまのご要望を最優先にして行動します。
  3. 私たちはお客さまに喜ばれるサービスを目指します。
  4. 私たちはお客さまの満足を大切にします。
  5. 私たちはお客様に誇れる会社・社員を目指します。
WATCHWORD 合い言葉
「心でとどける。心をむすぶ。」
SLOGANスローガン
「私たちはホスピタリティ流通業です」

②社名について

アウンズとは「あうんの呼吸」から生まれた造語。2015年、CS(顧客満足)経営で培ってきたお客様との関係性をさらに深め、社員の声をもとに地域の方々の必要な声にお応えできる、私たちの街になくてはならない会社へと進化することを目的に、現在の社名に変更した。

活動内容

1.「新聞」から「牛乳」へ、従業員主導で前向きにチャレンジ!

①「宅配牛乳」へのイメージチェンジ

  • 新聞配達は、お客様からあまり清潔なイメージを持たれていない。そのため、宅配牛乳を始めるにあたり、清潔感のあるイメージへと転換することが必須であった。参入時には、従業員同士で「清潔感をどうやって出すか」について話し合い、頭髪や服装などのルールを自分たちで設定した。
  • 新聞配達と宅配牛乳とでは、冷蔵庫や冷凍庫等の設備はもちろん、ユニフォームや消毒、集金方法など、同じ宅配とはいえシステムが全く異なる。こうした課題を解消するため、他店を見学に行ったり、従業員同士で議論を重ねたりしながら、入念に準備をしてスタートした。

②「牛乳の売りやすさ」が喜びに

  • 新聞は、「商品力」では差別化しづらい。したがって、新聞の営業においては、商品知識やセールストークはあまり重要ではなく、タイミングやスピード等が求められた。つまり、自身のレベルアップと営業成績とがつながりづらい商品であった。一方、牛乳は「商品力」で競合と差別化することができ、商品知識の向上が営業成績にも直結する。これがプラスに働き、従業員の向上心へとつながっている。
  • 新聞は、新商品の発売がないため、既存のお客様や一度断られたお客様に対するアプローチが難しい。一方、定期的に新商品が発売される牛乳に関しては、定期的に新たな情報を提供する機会があり、お客様とのコミュニケーションの機会が持てる。こうした新聞とは異なる牛乳の「売りやすさ」が従業員にとっては喜びとなっている。
  • 新聞の宅配購読者数は、ネットの普及等により、年々減少している。一方、牛乳に関しては、高齢化社会や健康志向の高まり等、追い風となる要素もあり、比較的営業しやすい環境にある。上記同様、こうした点も従業員のやる気アップにつながっている。

2.積極的な勉強会による従業員のレベルアップ

①支店単位での商品勉強会

  • 商品知識や健康への関心を高める勉強会を定期的に開催している。商品知識を高めることにより、お客様に対して健康面のアドバイスができるようになることから、全社員が積極的にこうした勉強会に参加している。
  • 商品勉強会は、当初は全社で集まって実施していたが、従業員からの要望により、現在では毎月支店単位で実施している。この勉強会には、メーカーの担当者も参加し、1支店10名以下の少人数規模で中身の濃い勉強会を行っている。

②全員参加の月例会

  • 月に1度、全従業員参加による「月例会」を実施し、目標に対する進捗管理とセールス、商品研修、企業活動の報告を行っている。また、担当者も含めた進捗報告を行うことで、事業計画の達成に向けた行動修正を図っている。
  • その他に、社長訓示によって企業理念の浸透を図っており、従業員一人一人の意識改革に繋がっている。これにより前向かつホスピタリティ意識を持った社風が醸成されている。
訪問時にはウエルカムメッセージが
社長の53歳の誕生日に贈られた
社員一同からの手作りプレゼント

③ホスピタリティ意識の醸成

  • 上記の社長訓示等により、「心でとどける。心をむすぶ。」の合言葉が企業風土として定着している。また、個々の従業員がお客様のための行動のレベルを上げることに努め、かつその行動レベルを全従業員で共有するよう委員会活動(後述)などを積極的に行っている。
  • こうした取り組みが評価され、2011年には「ホスピタリティビジネス企業」(国際ホスピタリティ研究センター)の認定を受けるなど、対外的にも評価されている。

3.従業員が主体的に動く取り組み

①お客様の声や地域の情報を主体的に聞く取り組み

  • 当社では、「情報メモ活動」という取り組みに最も力を入れている。この活動は、日々外回りをしている従業員の情報をメモとして残す取り組みであり、年間約2千枚の情報メモが提出・共有される。
  • この「情報メモ」には「近所の八百屋が閉店し買い物に不便である」「高齢で足腰が弱くなり買い物に行くことができない」といったお客様の声も記入・共有される。こうした従業員の声をきっかけに、農家の野菜を家庭に届ける「ファーブル倶楽部」等、新たな事業もスタートしている。
  • 「情報メモ活動」については、特に優れた活動を行った従業員に対し、表彰する制度も設けている。また、これを賞与にも反映する仕組みをつくっている。こうした取り組みにおいても、従業員の地域貢献やホスピタリティの意識が醸成されている。

②委員会活動

  • 新たな取り組みをスタートする際は、各支店のマネージャーをメンバーとしたプロジェクトが立ち上がり、そこで具体的な内容や実施の有無等が検討される。
  • 更にそれを具体的に進めていく際には、各支店のメンバーを更に集めた「委員会」が立ち上がり、その委員会によって運営される。こうした取り組みにより、従業員が積極的に事業運営に携わる仕組みをつくっている。

4.お客様との積極的な関わり合い

①一人の担当者が配達から集金まで担当

  • エリア別に配置された担当者が、自身の地域のお客様に直接商品を紹介する。新聞など他の商材で既に関係性が出来上がっているお客様に対し、健康に関する情報や牛乳の効能等の情報提供を行うため、お客様にも安心感をもってもらっている。
  • また、実際の配達も、営業を行った担当者が新聞含め配達する為、責任感を持って配達業務に取組めるため、よりお客様との信頼関係を築いていくことが出来ている。

②他事業も含めたサービス提供

  • カルチャーサロンエムズ倶楽部という、カルチャーサロンやイベントを自社開催し、地域住民の交流の場を創出している。地域住民の健康を促進したり、教養を深めたりするサークル活動を行っている。また地域の情報誌も発行し、情報提供している。
  • それ以外にもフランチャイズ事業のデイサービス「きたえるーむ浜松中央」の運営と「すまいるサポート事業」を展開している。地域の高齢者のニーズに応えたデイサービスの運営と、住まいや生活サポートの実施(住居の修繕や、リフォーム、設備のクリーニングなど)により、高齢者のお困りごと解決を図っている。
  • お客様に対しては、こうした事業も踏まえて情報提供やサービス提供をより多く行うことで、生活者支援を実施している。
やなぎはら健康新聞
地域情報誌 アウンズニュース

経営専門家の意見

新聞販売店からの参入で、牛乳販売店としてはまだこれからの面もあるが、牛乳販売店にとっては改めて気づかされる部分が多く、大変参考になる事例といえる。

たとえば、新聞は商品力で差別化することが難しく、新商品も発売されない。そんな新聞販売店からすると、宅配牛乳はかなり売りやすい商品と位置づけられるようである。

また、インターネットの普及等により発行部数が著しく減少している新聞と比べ、「健康ニーズ」や「宅配ニーズ」などの追い風要素もある牛乳は、魅力的な取扱商品ともいえる。

「商品知識を高めるほどお客様に効果的なアドバイスができる、そこに喜びがある」という点は、牛乳販売店としてのやりがいであり、目指すべき姿である。これらは異業種からの参入だからこそ感じられる視点であり、とても貴重な視点であると感じた。

会社としては、プロジェクトや委員会、「情報メモ活動」など、従業員が主体的に動く仕組みを効果的につくられている。さらに「ホスピタリティ流通業」という独自の業態を設定し、お客様におもてなしを届けることを業にしよう!と明言することで、従業員の目指すべき方向性をシンプルに伝えている。こうした取り組みにより、従業員に理念や方針がしっかり浸透し、それに添って主体的に動く従業員が育っている点は秀逸である。

また、宅配事業だけでなく、生活サポート事業、カルチャーサロン、デイサービス、整骨院など、商品の枠組みを越えて地域住民の生活を支える存在になっていこうという事業展開は、今後牛乳販売店にとっても目指すべき一つの姿と言えるかもしれない。

なお、宅配牛乳に関してはまだまだ伸びしろがある。今後の更なる取り組みにより、新聞配達店の異業種参入事例でなく、牛乳販売店の真の成功事例として、更なる成長を遂げていただくことを期待している。


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