優秀賞
一般社団法人 全国牛乳流通改善協会会長賞総合的チルド配送をめざす
牛乳宅配の仕組みづくり
株式会社栃雪
代表者町井 利行氏
発表者町井 海夫氏(写真)
ここがポイント
- ①お客様満足(CS)チームで既存のお客様を定期的に電話フォロー
- ②週1の配送システムを構築して効率アップ
- ③自動ダイヤルを利用するテレアポで受注効率向上
発表店概要
販売店の歴史及び代表者(発表者)の経歴
- 店舗外観
昭和27年10月、宇都宮市大工町で、菓子類の販売を中心とする「栃木雪印バターキャラメル販売会社」としてスタート。昭和43年4月、宇都宮市江曽島町に移転。現在は閉鎖しているが、昭和46年、雪印しらゆきの製造工場新設、昭和48年、アイススケート場も開設していた。昭和54年、栃木市箱森町に栃木営業所開設。昭和62年7月、茨城県岩間町に茨城支店開設。平成3年、本社新社屋とチルド冷蔵庫を完成させた。平成5年、「㈱栃雪運輸」を設立して運送部門を独立させた。平成7年、茨城県美野里町に茨城統括支店開設。平成23年、栃木県鹿沼市に鹿沼支店開設。そして、平成24年1月、宅配事業を強化し将来の柱とするために本社1Fにて食品宅配事業スタートさせた。本事業を実質的に構築したのが、専務の海夫氏である。牛乳メーカー勤務の経験とノウハウ、そしてIT技術を活かして、総合的チルド配送が可能となるような牛乳宅配のシステムを作りあげている。
店舖概要と立地環境
(1)牛乳関連店舗・設備
店数 | 冷蔵庫 | 冷凍庫 | 自販機 | ショーケース | |
---|---|---|---|---|---|
本店 | 1店 | 15坪 | 5坪 | ー | 2台 |
サブ店 | 1店 | ー | ー | ー | ー |
- 本社ビル1階に現場事務所、2階に管理を中心とする事務所を置いている。かつての工場を倉庫として使用しており、冷蔵庫と冷凍庫を設置して商品の仕分け等の配送準備作業を行っている。佐野市にデポ(サブ店)を開設している。
(2)牛乳関連営業用車両台数
保冷車 | 冷蔵車 | 軽トラック | ライトバン | その他 | 持込車 |
---|---|---|---|---|---|
ー | ー | ー | ー | 12台 | ー |
- 配送は全て自社の専用ワンボックス車で行っている。全ての車輌に配達ナビゲーション端末が搭載されている。
(3)牛乳関連従業者数
経営者 | 家族従業員 | 専従従業員 | パート アルバイト |
合計 | |
---|---|---|---|---|---|
男性 | 1人 | ー | 1人 | ー | 2人 |
女性 | ー | ー | ー | 28人 | 28人 |
合計 | 1人 | ー | 1人 | 28人 | 30人 |
- 経営者は専務、正社員は男性1名のみであり、倉庫内で配送準備作業を行うシニアである。既存のお客様フォロー及び宅配事務と宅配は全て女性パートに任せている。責任者も女性パートの中から選任している。
(4)経営状況
商品分類 | 前年比 | 構成比 | |
---|---|---|---|
牛乳関連 | 普通牛乳 | 111.6 | 90.9 |
加工乳 | |||
LL牛乳 | |||
乳飲料 | |||
ヨーグルト | |||
その他宅配商品 | 111.6 | 9.1 | |
牛乳関連合計 | 111.6 | 100.0 | |
宅配卸以外の売上計 | 0.0 | 0.0 | |
合計 | 111.6 | 100.0 |
業態 | 前年比 | 構成比 |
---|---|---|
宅配 | 111.6 | 100.0 |
卸(小売) | 0 | 0 |
自販機 | 0 | 0 |
集団 | 0 | 0 |
その他 | 0 | 0 |
合計 | 111.6 | 100.0 |
- 牛乳乳製品が宅配の中心であるが、今後はその他宅配商品を積極的に扱う方針である。卸等に関しては他の部門が担当している。
商品分類 | 前年比 | 構成比 | |
---|---|---|---|
牛乳関連 | 普通牛乳 | 115.6 | 95.0 |
加工乳 | |||
LL牛乳 | |||
乳飲料 | |||
ヨーグルト | |||
その他宅配商品 | 116.0 | 5.0 | |
牛乳関連合計 | 115.6 | 100.0 | |
粗利益率 | 55.3 | ー |
- 適正価格での販売を行い、高水準の粗利益率を確保している。
配達 時間帯 |
コース数 | 集金方法(軒) | 日均 本数 |
|||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
毎日 | 週3 | 週2 | 週1 | 他 | 訪問 | 振込 | 引落 | 袋 | 他 | 合計 | ||
早朝 | 2000本 | |||||||||||
午前 | 20 | 301 | 1468 | 564 | 2333 | |||||||
午後 | ||||||||||||
夜間 | ||||||||||||
その他 | ||||||||||||
合計 | 20 | 301 | 1468 | 564 | 2333 |
- 配達は1週間に1回のみ、9時から13時の間に行っている。配達時の集金もあるが、中心は引落である。その他はコンビニ集金。1軒当たり平均0.8本の日均本数を確保している。
(5)立地環境
- 東武宇都宮線江曽島駅からは徒歩20分。JR宇都宮駅からはバスで30分程度の住宅地に拠点を構えている。敷地面積は広く、宅配拠点としての環境は整っている。
- 配達エリアは宇都宮市ほぼ全域、鹿沼市、小山市、栃木市、芳賀郡芳賀町、下都賀郡壬生町、河内郡上三川町、真岡市、下野市にまでカバーしている。
- 日本最大の牛乳宅配チェーンの販売店が2店舗進出しており、競合は激しくなっている。
経営方針
会社全体としては「地域社会に対して様々な販売チャンネルを通じ、良質な商品およびサービスをお届けします」を掲げ、食品宅配事業では「宇都宮を中心として、毎日たくさんお客様のご自宅に安全・安心な食材や商品をお届けします」を基本方針としている。現場に対しては「ボトムアップ経営、女性活躍、シニア活躍」を経営方針として掲げている。
活動内容
1.お客様満足(CS)チームで既存のお客様を定期的に電話フォロー
現在牛乳を取って下さっているお客様を大切にし、受注を拡大するために専任のお客様満足(CS)チームを作って活動を行っている。
①2名のCSチームが定期的にお客様に電話
- 宅配管理システムには、その日に電話するお客様を自動的に抽出し、順番に電話をかける仕組みが組み込まれている。電話するお客様の情報はCSチームの画面に順次呼び出される。チームの2人はそれぞれが画面の情報を参考にお客様と会話を行う。
- 配達状況とお客様の健康状況を確認することから始め、次回の配達に向けてお客様からのリクエストを伺うことが中心である。キャンペーン実施中はその案内と季節の二次商品の紹介も行っている。お客様からの受注や要望は画面から直接システムに入力され、配達部門と営業部門にフィードバックされる。
②チームの1名をマネジャーに抜擢してKPI管理と賞与を紐付け
- 2人ともパート社員であるが1人をマネジャーに抜擢し、まとめ役を依頼している。
- KPI(重要業績評価指標)管理の手法を取り入れ、自ら設定した業績目標に応じて実績を評価し、賞与等に連動させている。
- チーム全体の接客品質が向上すると共にマネジャーには管理者として意識が育っている。
③自社開発のオリジナル宅配管理ソフトの請求書でプロモーション
- 専門家の協力は得ているが、システムの設計から構築そして維持管理までを専務自ら行っている。CSチームが使用しているお客様の抽出と自動電話のシステムは完全にオリジナル開発である。
- お客様へのプロモーションとして役に立っているのが請求書発行システムである。請求書様式は表計算ソフトで修正可能とし、毎月の請求データの下欄ではお客様への提案や商品紹介ができる。管理スタッフは毎月下欄の内容を変更している。
2.週1の配送システムを構築して効率アップ
少ないスタッフで効率良く宅配業務を行う為に、全てのコースを週1回の配送にしている。そして、スタッフのミスを減らし、配達事の負荷を軽減する仕組みを構築している。
①牛乳の賞味期限に合わせた週1配送
- 牛乳乳製品の賞味期限は技術の進歩によって2週間近くに延びている。生協等他の食品宅配では既に週1回の配送が恒例化しており、該社もそれらに合わせて全ての配達を週1回としている。
- 受注時にお客様にご理解をしていただくことによって、14人のスタッフで2千軒以上の顧客に商品を届けることが可能となった。
②配達商品を受け箱にセットして受け箱単位で配達
- 配送スタッフの作業効率を高めているのが受け箱単位の配送である。配達する商品はお客様毎に受け箱に全てセットされている。スタッフはそのまま車輌に積み込み、順番に配送を行う。商品がセットされた受け箱は配送の順番で並んでいる。前回配達した空の受け箱をお客様から回収する。
- 定期契約の牛乳乳製品に加えてCSチームが受注したデータは、配達当日の朝にお客様単位で出力され、商品をセットするボードに配送順に貼り付けられる。ピッキングスタッフは受け箱の内カゴをコンテナにセットして、品揃えを行う。セットが終了したカゴをそのまま受け箱に収納する。
- 受け箱とコンテナ
③配達車輌全てにタブレットPCの配達ナビ端末を設置
- 配達車輌のタブレットPC
- 当日の配達順は車輌毎のタブレットPCに記録されている。配達スタッフは受け箱を積み込んだ後、タブレットPCが指示する順番に配送を行えばよい。
- タブレットにはナビ機能が付いた地図も表示されている。配送の順番にコースが設定されており、道順もタブレットPCに従うことになる。
- 車内でのピッキング作業は必要なく、配達順を覚える必要も無い。配送効率が向上するとともに、宅配スタッフは接客に重心をおくことができている。
3.自動ダイヤルを利用するテレアポで受注効率向上
新規開拓の柱の1つがテレアポである。1階の現場事務所に専用の5端末が設置されており営業担当の女性が交代で新規のテレアポを行っている。
①自動ダイヤルシステムをオリジナル開発
- 宅配管理システムには新規開拓のテレアポ用に自動ダイヤルシステムが組み込まれている。これも該社が独自に開発したシステムである。
- システムがその日に電話するお客様を自動的に抽出して、端末毎に自動的に電話番号をダイヤルする。営業スタッフは地図と連動する画面の表示に従って、お客様の名前を読み上げてテレアポを開始する。20秒かけても応答しない場合は自動的に次のお客様にダイヤルを行うシステムである。1日に1端末で30~40軒を処理している。
②営業スタッフがクロージングまで実施
- テレアポの結果お客様からサンプリングの了解を得ると、商品等のサンプリング情報をシステムに入力する。この情報に基づいて倉庫ではサンプルがセットされ、配送コースに従ってサンプル商品がお客様に届けられる。
- サンプリングの結果を確認することも営業スタッフの役割である。最終的にはクロージングまでをテレアポで行っている。
③配達エリアのお客様情報は購入
- テレアポでダイヤルするお客様の情報は専門の業者から購入している。このデータをシステムに取込み、開拓すべきお客様をシステムが抽出する。
4.内臓脂肪と骨密度測定をセットにして毎日どこかでイベント営業
新規開拓の二つ目の柱が郵便局等で行うイベント営業である。該社ではイベント営業を日常業務として実施している。
①男性には内臓脂肪、女性には骨密度
- イベント会場には必ず内臓脂肪測定器と骨密度測定器の両方をセットする。内臓脂肪に関しては男性が興味を示し、骨密度に関しては女性が感心を持っているためである。会場に訪れる中高年の男女ともに測定対象とすることができている。
②2名がセットで毎日2ヶ所
- 2人が1組となって営業を行っている。1つのチームは1日フルタイム、もうひとつは半日の活動が主となっている。
- 会場は郵便局や道の駅等、多くの住民が訪れる場所を選択している。2つのチームがそれぞれ別の会場でほぼ毎日営業を行っている。1日平均50人を測定しており、結果に基づいて商品の提案と試飲を行なう。
③実施結果は詳細にデータベース化
- イベント営業の結果は会場べつに宅配管理システムに登録する。1日毎に成果を確認できる。
- イベント経費としては人件費と会場費そして測定器の使用料金とサンプル代も計上されている。成約情報も入力されており、毎日の配達コースに組み込まれる。
5.二次商品受注拡大のために酒コンビニ「吉兵衛」を倉庫として活用
現状は9割を牛乳乳製品が占めている。しかし、システム化された宅配システムを有効活用するために、二次商品の受注を拡大することを課題としている。二次商品の在庫問題を解決したのが直営の酒コンビニである。
①食品宅配拠点から徒歩3分の自社経営酒コンビニから商品調達
- 2018年10月11日、お酒と食のセレクトショップ「吉兵衛」をオープンさせた。栃木県では珍しい「百十郎」、「由布岳」をはじめ、限定流通の日本酒、国内外のお洒落でユニークなおつまみ、グルテンフリー食品など豊富な品揃えが魅力のお店になっている。
- コンテナを利用した酒コンビニであるが、この店で扱っている商品は原則として全て二次商品として宅配が可能としている。徒歩で3分程度の近さにあるため、店舗が二次商品の倉庫を兼ねることになる。
②CSチームが積極的に二次商品を紹介
- 二次商品の受注はCSチームが電話で行っている。配達日前の電話で御用聞きを行うのである。季節の商品や新製品等紹介を行う事によって受注の確率は高くなる。今後は吉兵衛を活用することによって二次商品の幅が広がることになる。
③倉庫でセットして牛乳と一緒に配達
- CSチームが受注した二次商品を吉兵衛から倉庫に運び、牛乳乳製品と一緒にセットしてお客様に届ける仕組みができ上がった。
経営専門家の意見
卸を中心に経営を拡大してきた販社が、宅配を強化するために、独立採算の部門を新設したのが当該事業である。牛乳メーカーに勤務していた専務がこの部門を担当しており、家業ではなく事業として宅配システムを構築している。人間が判断する要素を極力減らし、システムに従って作業を進めれば間違いなくしかも早く、さらに熟練者ではなくても宅配を行う事ができるシステムを構築したことは高く評価することができる。新規顧客の開拓についても無理な訪問営業ではなく、テレアポや郵便局等での試飲会で行っており、サンプリング等の費用を低額に抑えている。配達が始まってからもCSチームがお客様に健康状態の確認を兼ねた御用聞き電話を行ってお客様との密接な関係を保っている。二次商品の物流も整備できたので、これからは総合宅配業への発展が期待できる。
私企業の事業部としては今後の更なる発展を遂げるであろう。しかし、地域社会との交流が今後の課題として残されている。少子高齢が進んでいる地方都市において、地域の住民がその場所で安心して生活を続けることができるように、地域を支えるのが牛乳販売店の役割となりつつある。二次商品を含めて牛乳宅配で地域経済が少しでも上向くよう、地域社会にとって不可欠な存在となる方向に発展することを期待したい。