優秀賞
一般社団法人 全国牛乳流通改善協会会長賞お客様との密着が難しい中での
コミュニケーションの工夫
有限会社山口乳販
代表者山口 雅郎氏
ここがポイント
- ①お客様とのコミュニケーションの工夫
- ②地域とのつながり
- ③「効率化」をテーマとした取り組み
発表店概要
販売店の歴史及び代表者(発表者)の経歴
①販売店の経歴
- 昭和29年、JR京都線吹田駅北口に先代が脱サラをして創業。
- 平成10年には法人化し、現在の有限会社山口乳販を設立。
- 当時は積極的に多店舗展開を図っており、大阪北部から大阪府全域、さらには奈良へと進出を図り、最大で本支店合わせて9店舗(吹田本店、摂津店、淀川店、箕面店、寝屋川店、大東店、生駒店、法隆寺店、茨木店)にまで拡大した。最大時は、全社で顧客7千軒超、営業担当者70人体制で運営していた。
- 一方、大幅に多店舗化・エリア拡大を図ったことにより、各店のマネジメントが不十分になり、徐々に組織としての統制が取れなくなりつつあった。そこで、2010年頃からは一転して縮小路線に変更。当時9つのあった店舗は、店長に譲渡して独立を促したパターン(寝屋川店、大東店等)、他社に無償で提供したパターン(生駒店、法隆寺店)、また店舗を閉鎖して本店に吸収したパターン(箕面店、淀川店等)の3つのパターンによりスリム化を図り、大幅に改革を行った。
- 令和元年には、すべての支店の整理が完了し、現状では吹田本店1店舗の運営体制となっている。
②代表者の経歴
- 昭和59年、当時販売店を手伝っていた親族が退職したことを機に、当時の仕事を退職し、同店に入社。入社当初から実質経営面については任され、管理面等については全面的に携わってきた。
- 平成7年には、販売店(当時は個人事業)の経営を正式に引き継ぎ、経営者となる。その後規模の拡大等を踏まえて平成10年には法人化し、代表に就任した。
- 平成27年には次男(現在30歳)が入社、その翌年には長男(現在32歳)も入社し、現在は二人の息子と共に経営を行っている。後継者教育にも力を入れ、着々と承継準備も進めている。
店舖概要と立地環境
(1)牛乳関連店舗・設備
店数 | 冷蔵庫 | 冷凍庫 | 自販機 | ショーケース | |
---|---|---|---|---|---|
本店 | 1店 | 1.5坪 | 1.5坪 | ー | ー |
支店 | ー | ー | ー | ー | ー |
サブ店 | ー | ー | ー | ー | ー |
- 前述したとおり、現在は吹田市の本店1店舗のみで運営している。
- 業務用冷凍庫を4台保有しており、合計3,200個の蓄冷剤を保管している。
(2)牛乳関連営業用車両台数
保冷車 | 冷蔵車 | 軽トラック | ライトバン | その他 | 持込車 |
---|---|---|---|---|---|
ー | ー | 2台 | 2台 | 1台 | 3台 |
- 保冷車、冷蔵車で温度管理を徹底している。
(3)牛乳関連従業者数
経営者 | 家族従業員 | 専従従業員 | パート アルバイト |
合計 | |
---|---|---|---|---|---|
男性 | 1人 | 2人 | ー | 6人 | 9人 |
女性 | ー | 1人 | ー | 3人 | 4人 |
合計 | 1人 | 3人 | ー | 9人 | 13人 |
- 家族従業員は、長男、次男、代表の奥様の3人。長男・次男は配達から営業まで全般的に主力として動いている。
- パートには専属の営業担当が1名。それ以外は配達担当である。
(4)経営状況
商品分類 | 前年比 | 構成比 | |
---|---|---|---|
牛乳関連 | 普通牛乳 | 113.4 | 75.4 |
加工乳 | |||
LL牛乳 | |||
乳飲料 | |||
ヨーグルト | |||
その他宅配商品 | 103.0 | 24.6 | |
牛乳関連合計 | 110.7 | 100.0 | |
宅配卸以外の売上計 | ー | ー | |
合計 | 110.7 | 100.0 |
業態 | 前年比 | 構成比 |
---|---|---|
宅配 | 110.7 | 100.0 |
卸(小売) | ー | ー |
自販機 | ー | ー |
集団 | ー | ー |
その他 | ー | ー |
合計 | 110.7 | 100.0 |
商品分類 | 前年比 | 構成比 | |
---|---|---|---|
牛乳関連 | 普通牛乳 | 110.3 | 86.2 |
加工乳 | |||
LL牛乳 | |||
乳飲料 | |||
ヨーグルト | |||
その他宅配商品 | 95.5 | 13.8 | |
牛乳関連合計 | 108.0 | 100.0 | |
粗利益率 | 48.1 |
- 2人の息子を中心に積極的に拡売に取り組んでおり、売上・利益ともに大幅に増加している。
- その他宅配商品としては、森永の商品以外にオフィス・ミントのチラシによる二次商品の販売も行っている。
配達 時間帯 |
コース数 | 集金方法(軒) | 日均 本数 |
|||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
毎日 | 週3 | 週2 | 週1 | 他 | 訪問 | 振込 | 引落 | 袋 | 他 | 合計 | ||
早朝 | 22 | 71 | 2 | 515 | 91 | 704 | 1383 | 1338本 | ||||
午前 | 2 | 11 | 11 | |||||||||
午後 | 2 | |||||||||||
夜間 | ||||||||||||
その他 | ||||||||||||
合計 | 24 | 2 | 82 | 2 | 515 | 91 | 704 | 1394 |
- コースに関しては、現在効率化を進めており、週2コースを週1コースに移行していく方向で取り組んでいる。
- 集金に関しても効率化を進めており、基本的に袋集金・訪問集金は辞めていく方向で取り組んでいる。コンビニ・引き落としへの移行を推奨しており、「コンビニか引き落としにしたら商品プレゼント!」という企画も実施している。ちなみに上表の「その他」はコンビニ払込票。
(5)立地環境
- 店舗は吹田市南部にあり、高齢化が進む地域に位置する。大阪市に隣接する利便性の良さから工業や商業の産業集積も見られる。
- 商圏は、吹田市全域をはじめ、箕面市、豊中市、大阪市東淀川区、福島区、淀川区、北区の一部等、広域に広がっている。支店のエリアを本店に吸収したことも影響している。なお、エリアが都心部も含めて広域に広がっており、効率が大きな課題となっている。現在はエリアをいったん絞ることも検討している。
経営方針
- 地域密着をモットーに、お客様へ健康とおいしさをお届けすることを心がけている。お客様に適した商品をお届けするため、営業では一人ひとりしっかり傾聴し、お客様に適した商品の提供を行っている。
- 「どこよりも高いレベルの配達をしたい」と考えており、受け箱と蓄冷剤は年間必須にしている。
活動内容
1.お客様とのコミュニケーションの工夫
①「LINE@」を使ったお客様とのコミュニケーション
- スマートフォンの普及に合わせてLINEアカウントを会社で取得、LINE@を使ってお客様とのコミュニケーションを図っている。当サービス開始後、半年間で200軒超(全1,300軒中)の登録者があり、現在も毎日5~10件程度、登録者からのメッセージが届いている。
- LINE@を使うと、お客様にとっては急な本数の変更やお休み、質問などを簡単に送ることができ、店舗とリアルタイムでやり取りできる。こうした点は店舗側にとっては負担になる部分もあるが、お客様には利便性を実感してもらっており、登録者の解約は極端に低い状況となっている。
②手づくりチラシの活用
- 牛乳、乳製品の効果効能のチラシを独自で制作し、定期的にお客様全軒に配布している。チラシにはお試しチケットをつけ、新たな商品の契約獲得や単価UP等につなげている。また、チラシ商品を既に契約中のお客様に対しては、改めて商品の効果効能を確認してもらうきっかけとしている。
- 牛乳以外の二次商品に関しても、独自の手づくりチラシを作り、配布している。たとえば昨年の秋には、知人の丹波の農家から黒枝豆80人分を直接仕入れ、これを手づくりのチラシにて販売した。なお、この黒枝豆に関しては、自分たちも農場に足を運び、作業のお手伝いにも携わった。
- お客様との密着が難しくなっている昨今、こうした小規模だからできる独自商品、他社では真似できないような独自商品を自ら見つけ、販売することにより、お客様への付加価値向上に努めている。
③落本防止対策
- 契約1ヵ月後、2ヶ月後のお客様にはチケットを配布するなど、落本防止策を講じている。また、契約1ヵ月後、6週目にはお客様アンケートを実施し、お客様の声を聞いている。
- こうした取り組みの成果により、落本は毎年20軒程度と低い水準で推移している。また、止められたお客様については更なる分析を行い、よりいっそうの落本の減少にも取り組んでいる。
2.地域とのつながり
①吹田市の「救急医療」「見守り事業」の提案
- かつて配達中、お客様の最期に遭遇した経験があった。このお客様は、一人暮らしの高齢者で、1日3本飲まれるヘビーユーザーであった。ある日受け箱に商品が残っていたことから、自治会長にその旨伝えたが、その1週間後に死後3日経過した状態で発見された。「発見した1週間前に自分が違う行動を取っていたら、助かったのではないか・・」この出来事を悔やんだ山口氏は、行政に対して自分たちが高齢者支援にもっと協力できる方法はないかと申し入れた。
- これを踏まえ、吹田市と共に「救急医療情報キット」を開発・作成。当店もこの普及活動をお手伝いしている。
- またこれを機に「見守り事業」もスタート。現在も40~50軒のお客様について見守りを行っている。なお、見守り事業に関しては、当時はまだ現在のように全国的に普及しておらず、これが先がけとなる取り組みであった。
②骨密度測定会の実施
- 地域密着をモットーに、近隣のスーパーや郵便局、商店街、スポーツ施設などで「骨密度測定会」を行っている。測定器は自前で購入し、年間80~100回の測定会を開催している。また、営業代行会社に一部委託するケースもあり、多いときは合わせて年間200回程度実施していた。
- 測定会では、お客様の骨、ご自身・ご家族の体の気になる症状をうかがい、お客様に適した商品を適した数量で提案している。エリア内を定期的に周って測定会を開催しており、地域の方々への健康をサポートしている。
- 当活動は、郵便局では1日4~5件の個別相談があるなど、営業面での成果にもつながっている。また、各地域で頻繁に実施しているため、地域の顔見知りの住民も増加しつつある。
3.「効率化」をテーマとした取り組み
①コースの見直しによる効率化
- 現状は、商圏エリアが広いため、配達の効率化が課題となっている。現在の配達は、週2回コースが基本であるが、今後は週1回を基本コースにする方向で進めている。
- コースをメインコースとサブコースの2つに区分し、サブコースに関しては2コースを1コースにするなど、効率化の取り組みを図っている。
②集金業務の効率化
- 集金に関しては、袋集金・訪問集金からコンビニ払い・引き落としへの移行を積極的に進めている。
- 支払い方法を変更したお客様には商品をプレゼントするなど、積極的に取り組みを進めている。その結果、袋集金・訪問集金のお客様は全体の約15%まで減少している。
③営業会議による効率化の話し合い
- 毎週土曜日の午前中、営業会議を実施し、数字面の打ち合わせや改善事項の検討などを行っている。
- 特にコースの効率化に関しては、走行距離を配達軒数で割るなどによって指数を算出し、その数値をベースに話し合いをするなど、常に改善を図っている。
④店舗のスリム化
- かつて大幅なエリアの拡大、店舗の増加によりうまくいかなくなった経験があり、スリム化・効率化によって収益を上げていこうという意識が強くある。
- 近場の支店のお客様をすべて本店に集約したことにより、現状商圏エリアが少し広がりすぎている。現在は、売上が落ちることも想定しながら、エリアの絞込みを行っていく方向で準備を進めている。
経営専門家の意見
該店は、大阪市に隣接する吹田市に本社を置き、販売エリアは大阪市内にも広がる。配達エリアが比較的都心部にあり、且つエリアが広範囲にわたっていることから、該店では「効率化」が大きな課題となっている。したがって、訪問集金からコンビニ払い・引き落としへの移行を進めると共に、週2回配達のコースを1回に削減するなど、積極的に効率化に取り組んでいる。
一方、その影響により、お客様との接点が減り、コミュニケーションの機会が減少している。つまり、お客様に密着しづらい状況となっている。こうした状況を踏まえ、該店ではお客様とのコミュニケーションの部分に工夫を施している。その代表的な取り組みが、LINEの活用である。LINE@を使うことで、お店側からの情報発信はもちろん、お客様からも気軽にコミュニケーションを取ることができる。実際は、「今週はストップしてほしい」等、お店側にとっては一見プラスにならない依頼が大半のようであるが、こうした取り組みによってお客様の満足度が高まり、落本防止につながっている。また、オリジナルチラシを作成して効果効能をアピールしたり、他では購入できないようなオリジナル商品を探して販売するなど、お客様との距離を縮める工夫を積極的に行っている。
ここ数年で支店を整理してすべて本社に集約し、今後は新体制による新たな取り組みに期待が持たれる。特に、後継者となる30代前半の長男・次男による新しい発想により、更に飛躍されることを期待している。