第31回 牛乳販売店優良事例発表会

(一社)全国牛乳流通改善協会

優秀賞

農林水産省生産局長賞お店のイメージアップにより
「従業員が働きたい職場」に

有限会社伊藤食品販売
代表者伊藤 恵祐
発表者高橋 真希(写真)

ここがポイント

  1. ①地域に密着した取り組み
  2. ②スタッフ同士の情報共有・勉強会
  3. ③お客様とのコミュニケーション

発表店概要

販売店の歴史及び代表者(発表者)の経歴

(1)発表店の歴史

  1. 昭和29年3月、伊藤恵祐氏の父である先代が、大曲市に「なかよし牛乳」を創業。その後、昭和33年から森永牛乳の販売店に、また昭和52年から小岩井乳業との併売店となった。
  2. 昭和63年9月に法人化し、「有限会社伊藤食品販売」としてスタート。現代表である伊藤恵祐氏は、平成19年に事業を継承し、代表取締役に就任した。
  3. 平成6年にミルクセンター、平成8年に横手支店、平成17年に由利本荘営業所をそれぞれ開設。平成19年にはミルクセンターと横手支店を統合し、現在の基幹店である美郷ミルクセンターとなった。また、平成21年には岩手県に盛岡支店を開設し、現在の3支店体制となった。
伊藤 恵祐氏(代表者)
美郷ミルクセンター

(2)発表者の経歴

高橋 真希氏(発表者)
  1. 発表者である高橋真希氏は、パート社員として、美郷ミルクセンターに約10年間勤務している。該店の営業を専属で担当しており、長年にわたって該店の拡売を担ってきた。
  2. 現在は子育て中のためパート社員であるが、将来は該店の店長候補として期待されている。

店舖概要と立地環境

(1)牛乳関連店舗・設備

  店数 冷蔵庫 冷凍庫 自販機 ショーケース
本店 1店
支店 3店 29坪 3坪 5台 3台
サブ店 2店 3坪 1.5坪 2台
  • 現状、本店は伊藤氏の自宅であり、お店としては機能していない。
  • 支店は、基幹店の美郷ミルクセンターと、盛岡支店、由利本荘営業所の3つの支店で構成されており、冷蔵庫はそれぞれ15坪、11坪、3坪となっている。5台の自販機は主に温泉施設に、また3台のショーケースは主にホテルに設置されている。
  • サブ店は大仙市内に2店存在し、それぞれ150軒、60軒の顧客を持っている。

(2)牛乳関連営業用車両台数

保冷車 冷蔵車 軽トラック ライトバン その他 持込車
5台 1台 1台 2台 10台
  • 冷蔵車は、事業所関連の配達が多い由利本荘営業所で使用している。
ライトバン
保冷車

(3)牛乳関連従業者数

経営者 家族従業員 専従従業員 パート
アルバイト
合計
男性 2人 2人 11人 15人
女性 1人 11人 12人
合計 3人 2人 22人 27人
  • 専従従業員は、常務と本荘営業所店長の2名である。
  • 営業は、美郷ミルクセンター1名(高橋氏)、盛岡支店2名、由利本荘営業所2名の5名が担当している。

(4)経営状況

①平成29年製品別売上高(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 102.5 81.6
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 110.0 10.9
牛乳関連合計 103.3 92.5
宅配卸以外の売上計 77.0 7.5
合計 100.7 100.0
②平成29年業態別売上高(%)
業態 前年比 構成比
宅配 115.4 91.0
卸(小売) 91.2 2.6
自販機 94.9 4.7
集団 13.7 1.1
その他 85.7 0.6
合計 105.1 100.0
  • 宅配の売上は前年より増加している。特に二次商品の売上が大幅に増加しており、それによって宅配全体の売上も向上している。
  • 業態別に見ると、集団の売上が前年から大幅に減少している。これは、利益率が低く、時間指定が厳しい保育園向けの事業から徐々に撤退しているためである。
③平成29年粗利益(%)
商品分類 前年比 構成比
牛乳関連 普通牛乳 94.0 70.0
加工乳
LL牛乳
乳飲料
ヨーグルト
その他宅配商品 98.6 30.0
牛乳関連合計 95.3 100.0
粗利益率 44.2
  • 宅配関連の売上高は増加傾向にあるが、一方で粗利益は減少している。
  • 粗利益率が前年から約3ポイント低下しており、それが粗利益の減少を招いている。
④配達の状況
配達
時間帯
コース数 集金方法(軒) 日均
本数
毎日 週3 週2 週1 訪問 振込 引落 合計
早朝     30     2308 2 341 551   3202 2375本
午前     7 1   821   10     831
午後                      
夜間                      
その他                      
合計     37 1   3129 2 351 551   4033
  • 全体の約8割が早朝コースであるが、実際は朝5時頃に出発し、お昼頃にかけて配達している。
  • 集金については、お客様との貴重な接点の機会と位置づけており、訪問集金を推奨している。

(5)立地環境

本店・支店・サブ店の位置を示した地図
  1. 商圏人口201,900人、世帯数60,500世帯。
    横手市(約9万人)、大仙市(約8万人)、美郷町(約2万人)の全域と湯沢市、由利本荘市、盛岡市の一部をカバーしている。
  2. 美郷町の美郷ミルクセンターのほか、由利本荘市、盛岡市にそれぞれ営業所・支店を構えている。また、大仙市内には2店のサブ店も存在する。いずれの地域も人口減少が顕著であり、過疎化・高齢化が進んでいる。
  3. 美郷ミルクセンターの前には羽州街道が通っており、1日あたり約1万台の車が走行している。

経営方針

店内に貼られているスローガン
  1. 健康をお届けして65年。牛はなぜ乳を出すのか(子牛のため)、その大切な乳を安心・安全と共にお客様にお届けする。
  2. 「自分もお客様も納得できる商売」というスローガンを掲げており、店内の壁にも貼り出している。
  3. 各店舗の経営自体は従業員に任せ、伊藤氏自身は全体をマネジメントする役割に徹する考えである。関連会社の小岩井ミルヒが尾形専務に任せて成功しているように、該店もゆくゆくは従業員に任せる方針であり、今回の発表者である高橋真希氏に引き継いでいくことを検討している。

活動内容

1.地域に密着した取り組み

①地元中学生の「職場体験」の受け入れ

  • 地元の中学校から、職場体験の生徒を毎年受け入れている。生徒にはパソコンへの入力業務などを手伝ってもらうことで、牛乳販売店の仕事を体験してもらっている。
  • この取り組みは、中学生が牛乳や牛乳販売店に興味を持ってもらうきっかけになっており、該店のPRに大いにつながっている。
  • また、職場体験した生徒の親が該店に興味を持ち、求人の際に真っ先に応募してくれたケースがあった。生徒の受け入れにより、生徒だけでなく、生徒の親に対するPR・イメージアップにもつながっており、求人の際には常に多数の応募者がある。

②地元小学生の「職場体験」の受け入れ

  • 今年度は、新たに教育委員会から小学生の職場体験を依頼され、6人の児童を受け入れた。
  • 児童には受け箱の洗浄やチラシの折作業等を行ってもらい、牛乳販売店の仕事を体験してもらった。なお、次年度以降も継続する予定である。

③地域行事への参加協力

  • 長年にわたり、地域の子供相撲大会やお祭り等に牛乳を提供してきた。それをきっかけに、参加者を中心とした人たちがお店に来店してくれるようになり、今では常連客として乳製品を購入してくれている。
  • それ以外にも商工会議所や農協、行政のイベント等には積極的に出店・参加している。

2.スタッフ同士の情報共有・勉強会

①朝礼の実施

  • 全ての店舗で、毎日全員参加の朝礼を行っており、「本日の仕事内容」について一人ずつ発表している。毎日実施することにより、「朝礼をするのが当たり前」という意識が根付いている。
  • 朝礼で仕事内容を発表してもらうことにより、個々の従業員に「必要とされている」という意識が芽生えている。こうした取り組みが離職防止につながっており、退職者の極めて少ない職場になっている。
  • 営業担当者は、毎日その日の訪問予定を発表する。訪問先等は全て担当者本人に任せているが、それによって責任感が生まれており、月平均50軒以上の新規顧客がコンスタントに開拓できている。

②木曜朝会の実施

  • 毎週木曜日には、朝礼後に30~40分間の「木曜朝会」を行っている。美郷ミルクセンターと由利本荘営業所とは合同で、また盛岡支店は単独で行っている。
  • 前回の会議を踏まえた結果報告や新たな取り組み内容、活動報告等を発表することにより、各人に参加意識が芽生えている。

③販売会議の実施

  • 毎月第3水曜には、3つの支店の代表者が集まり、昼食を交えながら話し合う「販売会議」を行っている。目標設定や反省点等、自由に話す場となっている。

④商品勉強会の実施

  • 商品勉強会は、新商品発売のつど全従業員参加によって実施している。それにより皆が納得しながら配達業務や拡売セールスに取り組むことができている。
  • 年に1回、ホテルを借りて勉強会を行っている。この勉強会には、関連会社も含めて全ての従業員が参加し、食事会も兼ねた懇親の場、情報交換の場になっている。

3.お客様とのコミュニケーション

①配達時の声かけ

  • 高齢者への日中の配達を中心に、配達時の声かけ・安否確認を行っている。
  • 数年前、牛乳や新聞が取り込まれていないことに気づいた配達員が、市役所に連絡したところ既に亡くなっており、地域や親族から感謝されたケースがあった。

②お客様とのコミュニケーション

  • 日中の配達に関しては、直接お客様に手渡しし、コミュニケーションを取るケースが増加している。それに伴って以前より配達に時間がかかるようになっているが、その分お客様との良好な関係も築けていることから、会社としては各配達員の裁量に任せている。こうした状況を踏まえ、自主的に早く出社し、対応している従業員も増加しており、以前8時に出発していた配達員が、自主的に5時頃配達出発するようになっているケースもある。
  • お客様と良好な関係を築いていることから、たくさんの野菜を戴いてくる配達員も多い。最近では、店の前で直売所ができるほど多数の野菜が集まるようになっている。

4.二次商品の販売

①チラシによる二次商品の販売

  • 「牛乳宅配の受け箱は宝」と捉えており、二次商品のチラシのポスティングを重要視している。小岩井農場の堆肥「ファームエコー」が年間1,000袋販売されるなど、売れ筋商品も出てきている。
  • 二次商品に関しては、他では販売していない商品の発掘に力を入れており、仕入先・提携先の開拓を積極的に行っている。稲庭うどんやキクラゲなど、独自で開拓し順調に販売している商品も増加している。
  • チラシの折作業に関しては、地元の障がい者施設に依頼しており、地域貢献にもつなげている。
  • チラシのポスティングを強化したことにより、「牛乳販売店が何でも届けてくれる」というイメージを持ってもらえるようになっており、お客様へのイメージアップにつながっている。
二次商品チラシ

②店舗の活用

  • 美郷ミルクセンターの前の道路は、1日1万台の車が通行する幹線道路である。この立地を活かし、店頭でソフトクリームの販売を行っている。道路沿いにソフトクリームの看板を設置しており、前を通る一元客を取り込んでいる。
ソフトクリームの看板
店内で販売している二次商品

経営専門家の意見

該店では、小中学生の職場体験をはじめ、地域行事への参加や地元団体の役員を務めるなど、地域に根付いた活動に熱心に取り組まれている。こうした取り組みが、該店のイメージアップにつながり、それが顧客の獲得だけではなく、従業員の採用にまで影響している。

また、従業員の教育にも力を入れており、特に個人に「任せる」ことで、やる気や主体的な行動、責任感等を引き出そうとしている点が窺える。そして、こうした取り組みにより、従業員が働きやすい職場を実現しており、その結果、従業員が辞めない定着率の高い職場になっている。

「人が集まらない」「人が定着しない」という人手不足に陥っている販売店が多い中、求人に人が多数集まり、また入ったら辞めない職場を実現している点は秀逸である。

今後、責任者を女性スタッフに任せていく方針とのことであり、これからの更なるお店の成長・発展が大いに楽しみである。

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